日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S24-3
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シンポジウム24
ヒューマンオルガノイド技術による脂肪性肝炎病態の再現と工学的手法による新規線維化評価系の構築
*米山 鷹介武部 貴則
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抄録

 近年、生活習慣病や糖尿病の増加を背景に先進諸国で急増している非アルコール性の脂肪性肝炎は、脂肪肝から悪化し、炎症・線維化を伴う進行性の慢性疾患である。脂肪性肝炎に対する既存薬の効果は極めて限定的であり、新規の治療法の探索に向けて、患者病態を再現可能なオルガノイドによる創薬研究に注目が集まっている。しかしながら、従来の研究手法の多くは炎症・線維化・硬変といった複雑病態を仲介する多細胞基盤を再構成できないこと、また、オルガノイドレベルで線維化などの表現型を反映するリードアウトが存在しないことが創薬応用を阻む大きな要因となっている。

 最近、我々は、ヒト多能性幹細胞から、肝細胞に加えて、肝臓に少数存在する免疫細胞や間質細胞を内包する多細胞系からなる肝オルガノイドを創出することに成功した。各細胞種マーカーの発現解析やシングルセルRNAシーケンス解析の結果、本オルガノイドには、肝細胞、常在性マクロファージのクッパー細胞、間質系の肝星細胞に極めて類似した細胞群が含まれていることを1細胞レベルで明らかとした。さらに、遊離脂肪酸の負荷によりオルガノイド中に中性脂肪が顕著に蓄積し、その後、TNF-αやIL-8などの炎症性サイトカインの発現が上昇するとともに、線維化を示す組織学的変化が起こることを見出した。我々は線維化の重篤度と関連する指標としてオルガノイドの硬度特性に着目し、原子間力顕微鏡を用いた硬さ測定によって、線維化をよく反映する形で肝オルガノイド自体の物理的硬さが増加すること、また、非アルコール性脂肪性肝炎に対する臨床試験薬の処理をすることで脂肪性肝炎オルガノイドの硬度上昇がキャンセルできることを明らかにした。

 本講演では、オルガノイドの硬度特性評価を取り入れることにより、新たなオルガノイド創薬・肝障害評価系の構築を目指した我々の最新の取り組みについて紹介する。

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