日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-17
会議情報

内分泌攪乱化学物質、生殖毒性、毒性発現機構
2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxinによるaryl hydrocarbon receptor非依存的な経路を介した乳癌細胞増殖抑制作用
*青木 明吉岡 弘毅廣森 洋平木村 朋紀藤井 義明中西 剛永瀬 久光
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

ダイオキシン類の中で最も毒性の強い2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)は、ダイオキシン受容体(AhR)のアゴニストとして作用することで毒性を引き起こすことが知られている。また、AhRはエストロゲン受容体(ER)とクロストークし、ERの分解性を修飾することで、ダイオキシン類が抗エストロゲン作用を示すことが報告されており、TCDDはAhRを介してヒト乳癌細胞の増殖抑制作用を示すと考えられている。その一方で、AhR非依存的な経路でヒト乳癌細胞の増殖を抑制する有機塩素化合物が存在することから、TCDDもAhR非依存的な経路で作用を示す可能性が考えられる。そこで本研究では、TCDDのAhRを介さない毒性発現機構の解明を目的とし、TCDDのヒト乳癌細胞増殖抑制におけるAhRの関与について検討を行った。
 3H-thymidineの取り込み量を指標にTCDDのヒト女性生殖内分泌器系細胞株の増殖に対する影響について検討を行ったところ、TCDDは0.01 Mという低濃度で乳癌細胞株(MCF-7細胞、ZR-75-1細胞)の増殖を有意に抑制した。しかし、それ以外の細胞株(OVCAR3細胞、HeLa細胞、JEG-3細胞)には10 nMでも全く抑制されず、TCDDの作用は乳癌細胞特異的なものであった。続いて、ERαをノックダウンまたは過剰発現させた条件で同様に検討を行ったところ、TCDDによる増殖抑制作用の程度に変化は認められなかった。このことから、TCDDはER非依存的に乳癌細胞の増殖を抑制していることが示唆された。他のAhRアゴニストもTCDDと同様に細胞増殖抑制作用を示すか検討を行ったところ、3,3’,4,4’,5-pentachlorobiphenylは十分なAhR転写活性化能を示す濃度においても増殖抑制作用を示さなかった。その一方で、TCDDはAhRをノックダウンした条件においてもMCF-7細胞の増殖を抑制した。これらの結果から、TCDDによる乳癌細胞増殖抑制作用は、AhR以外の経路を介したTCDDに特徴的な現象である可能性が示唆された。

著者関連情報
© 2012 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top