日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P018
会議情報

画像解析を用いた相模川中流域における河成段丘礫の円磨度の計測
*高橋 尚志太矢 敦士石村 大輔
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

河川の運搬・堆積過程を評価する上で,砕屑物の破砕・摩耗過程を反映している礫質砕屑物の円磨度は重要な指標の1つである(宇津川・白井,2016など).現成河川の運搬過程や破砕・摩耗作用の解明を目的とした現河床礫の円磨度に関する研究は蓄積が多い(中山,1954; 宇津川・白井,2019など).一方,過去の河川堆積物である河成段丘構成層でも,礫質砕屑物(段丘礫)の円磨度は,過去の河川環境を把握する上で有効である.段丘礫の円磨度は定性的な記載にとどまる事例も多いが,定量的に計測した事例も複数存在する(大倉,1958; 小野・平川,1975; 山本,1987など).

しかし,従来の段丘礫の円磨度の計測事例は,Krumbein (1941)の円磨度印象図に基づいた目視判定によるものが多く,また,計測粒径や個数が限られるものも多い.近年では,画像解析による円磨度の計測手法が発達し,津波堆積物などの礫質砕屑物に対して適用されている(Ishimura and Yamada, 2019など).段丘礫に対しても客観的で再現性が高い画像解析を用い,かつ様々な粒径の段丘礫粒子を多量に計測することで,過去の河川の土砂運搬過程,ひいては古気候水文環境を議論可能と期待される.本研究では,関東地方,相模川中流域における後期更新世の河成段丘礫を対象に,画像解析を用いて円磨度を計測し,現河床礫の結果(石村・高橋,2022)と比較した.本発表では,その結果の報告と予察的な議論を行う.

段丘礫は,相模原市地形・地質調査会(1986,1990)を参考に,下記の地点・層準で,2 mm~64 mm(最大)の粒子を1φごとに採取した.(1)相模原市緑区中野(桂川源流から約67 km)で田名原(ⅢT)面下の層厚20 m以上の埋谷性の礫層の上・中・下部で採取した.(2)相模野台地の最終氷期極相期頃の段丘である陽原面の構成層が観察可能な3ヶ所の露頭(源流から約76~82 km)で,富士相模川泥流堆積物の直下およびそれに載る円礫層から採取した.採取した礫を,洗浄・篩分した後,風乾させて,Ishimura and Yamada (2019)の手法に従って撮影・解析し,円磨度の平均値やヒストグラムの歪度などを求めた.

その結果,ほとんどの試料で粒径が大きいほど円磨度の平均値が高い傾向がみられた.これは相模川の現河床礫でも確認されている(石村・高橋,2022).相模川の現河床では,32 mm以下の粒子で円磨度の平均値が源流付近で急増したのち,それより下流側では漸増する傾向,ならびに歪度が下流へと減少する傾向が確認された(石村・高橋,2022).現河床礫と同様に,段丘礫の平均値を相模川本流に沿った流下距離に対してプロットすると,(2)の粒径2~4 mmの円磨度が,同程度の流下距離の現河床礫のそれよりもやや低い値を示したものの,全体としてはほぼ現河床礫のそれに近い値となった.歪度は,ばらつきは大きいものの,現河床礫とほぼ同程度,もしくは16 mm以下の粒径で若干高い値を示した.

小野・平川(1975)や山本(1987)は,最終氷期の河成段丘礫の円磨度は現河床礫のそれよりも低く,河川流量の減少や周氷河作用の影響があったことを指摘した.しかし,本研究では相模川中流域において,最終氷期に向かう河床上昇期および最終氷期極相期の段丘礫の円磨度は,現河床礫のそれと大きな傾向の違いを認めることはできなかった.むしろ,相模川中流域では,河谷埋積期および最終氷期の段丘面形成期の河床礫は,現河床礫と同程度の平均円磨度に達していた可能性がある.今後,源流付近での段丘礫の円磨度の変化傾向を把握するとともに,氷河・周氷河作用の影響が大きかった河川の段丘礫の円磨度も計測し,比較する必要がある.

謝辞:東京都立大学,東北大学,信州大学の学生諸氏には,現地調査や室内分析にご協力頂いた.本研究は科研費21H00631を用いた.

文献: 石村・高橋 (2022) JpGU2022,HGM03-P05; Ishimura and Yamada (2019) Sci. Rep., 9, 10251; Krumbein (1941) J. Sediment. Petrol., 11, 64-72; 大倉 (1958) 地理評, 31, 206-219; 小野・平川 (1975) 地理評, 48, 1-26; 中山 (1954) 地理評, 27, 497-506; 相模原市地形・地質調査会 (1986; 1990) 「相模原の地形・地質調査報告書」; 宇津川・白井 (2016) 地理評, 89, 329-346; 宇津川・白井(2019) 堆積学研究, 78, 15-31; 山本 (1987) 東北地理, 39, 81-97.

著者関連情報
© 2024 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top