日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: P017
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十勝平野沿岸にみられる最終氷期の扇状地性の河成段丘のルミネッセンス年代
*石井 祐次
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抄録

更新世の河成段丘は気候変動や海水準変動,地殻変動に対する河川の記録であり,古くからそれらの記録を読み解くことが試みられてきた.日本の河川中流~下流域には氷期に形成された堆積性の河成段丘がみられることがある.既存研究においてはこれらの段丘面上のレスおよび段丘堆積物中に含まれるテフラにより編年がおこなわれてきたが,段丘堆積物中にテフラが含まれることは少なく,河床の上昇過程を詳細に明らかにすることは困難であった.堆積物に含まれる砂を対象とするルミネッセンス年代測定を用いることで,河床の上昇過程を詳細に明らかにすることができると期待される.最終氷期に形成された河成段丘のルミネッセンス年代測定については,Single-aliquot regenerative dose(SAR法)が開発された2000年以降,および長石のpost-infrared infrared stimulated luminescence(post-IR IRSL)年代測定が開発された2010年頃以降におこなわれるようになった.しかし,厚い堆積性の河成段丘堆積物に対して高解像度で年代値を入れて河床変動を詳細に明らかにし,気候変動や海水準変動の影響を明らかにした例はほとんどない.本研究では,十勝平野の沿岸部にみられる扇状地性の河成段丘を対象として,高解像度のルミネッセンス年代測定にもとづいて,その形成過程を明らかにした.十勝平野の沿岸部には日高山脈に端を発する歴舟川,紋別川,豊似川,野塚川,楽古川が形成した扇状地性の河成段丘が発達する.最終氷期に形成された十勝平野の河成段丘面はテフラ編年にもとづいて上位からKo I,Ko II面,Ko III面に区分されており,その発達過程が詳細に明らかにされている(平川・小野,1974).Ko I面はSpfa-1(約46 ka)に覆われている.Ko I面の形成時に最も河床上昇が盛んであり,場所により20 m以上の層厚を持つ.Ko II面はKo I面を数m下刻して形成され,Ko II面堆積物の層厚は最大でも5 m程度である.十勝平野の沿岸部ではKo I面堆積物の基底は現在の海水準付近であると考えられており,標高約3 mにToya(約110 ka)が認められている.十勝平野の内陸部ではKo II面はEn-a(約18 ka)によって覆われているが,沿岸部ではEn-aが分布しないこと,Ko II面とKo III面の標高差が極めて小さいことから,十勝平野の沿岸部ではKo II面とKo III面を区分することは困難である.十勝平野の沿岸部では海岸沿いに露頭がみられる.河成段丘堆積物は砂礫層によって主に構成されるが,ときおり挟在する砂層を対象として,3地点において合計18点のルミネッセンス年代測定用の試料を採取した.250–350 μmの長石について,低温(150℃)のpost-IR IRSL年代測定をおこなった.長石のルミネッセンス信号はanomalous fadingにより減少する.平均フェーディング率はIRSL50/150が3.5~4.0%/decade,pIRIR50/150が1.2~1.8%/decadeであった.これらの値は,十勝平野内陸部と同様である(Ishii, 2024).pIRIR50/150のフェーディング率は小さいこと,フェーディング補正後IRSL50/150年代とpIRIR50/150未補正年代が一致することから,pIRIR50/150未補正年代は正確な堆積年代であると考えられた.野塚川~楽古川付近では約90 kaまでに河床が標高約10 mまで上昇した後,約80 kaに標高4 m以下まで下刻し,60 kaまでに標高27 mまで急速に河床が上昇したことが示唆された.Ko I面の堆積中には2~3回の下刻と河床上昇が生じたと推測されるが,80~60 kaにおいて最も高くまで河床が上昇した.約60 kaには約10 mの下刻が生じ,その後は25 kaまでに側方侵食を伴う緩やかな河床上昇が約5 mほど生じ,Ko II面が形成された.これらの下刻および河床上昇は,海水準変動および東アジア夏季モンスーン変動による降水量変動により説明できる可能性がある. 引用文献平川・小野 1974. 地理学評論 47: 607–632.Ishii, Y. 2024. Quaternary Geochonology, 79: 101486.

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