日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 508
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過疎地域のスマートネスの実態と今後の課題
―島根県を事例として―
*王 立騰
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抄録

1. はじめに

三大都市圏への人口集中、都市と農村の格差の拡大などを背景として、過疎地域は今後、非農業者も含めた更なる人口の減少や、存続が危ぶまれる集落の増加に直面することになる。地域振興において重要とされた自助・共助・公助の可能性については、行政の財政難や人員不足、地域コミュニティからの人口流失、住民自身の高齢化などの原因で低くなっている。近年、デジタル技術が盛んになり、田園回帰の流れをふまえ、政府により様々な国土計画や地域政策が打ち出されている。「ネオソサエティ」という複雑な社会状況のなか、都市と農村の相互関係に新たな動きがもたらされており、それがそれぞれの地域の将来に大きな影響を与える可能性がある(堤2022)。こうした状況のなか、林立している政策のアウトカムとボトムアップの視点から過疎地域のスマートネスの現状を把握することによって、過疎地域の存続においての諸課題を探り出す必要性がある。

2. 研究対象・方法

過疎地域におけるスマートネスに関する諸問題を探究するためには、スマートネスに関連する政策(地方創生、スマートシティ、デジタル田園都市国家構想)についてレビューし、各政策の歴史、その背後にある理論と政治状況を理解することによって、政策の本質および政策間関係を解明することができる。本研究では、①離島振興法、②半島振興法、③山村振興法の指定地域、すなわち、①島根県隠岐諸島、②松江市美保関町、③邑南町口羽・阿須那地区の三地域内の19箇所を対象として、現地調査を実施し、役場職員・地域おこし協力隊隊員・学校教育関係者・観光業者・地方企業の従業員・NPO組織メンバー・自営業者などに対して聴き取り調査を行った。すなわち、各地域独自の課題をふまえて、実際に地域振興課題に関わる人々や現地住民に対して、地域のスマートネスの現状と将来像について調査を実施した。本研究では、地域の実態に即したデータを収集し、地域類型別・課題別の分析を行うことにより、スマートネスの導入が地域社会に及ぼす実際の影響を評価、過疎地域でのスマートネスの課題を明確にすることを目的とした。

3. 考察と結論

政策と理論の分析では、「国家全体の発展を優先し、地域の特性を軽視すること」、「ボトムアップによる政策策定の欠如」、「人口の争奪」、「技術主導」、「効率主義」、「資金の域内循環の困難性」、「人材・資金不足」などの問題が行政・教育・産業・交流などの方面で存在することやスマートネス推進に多重的なズレが生じていることが確認できた。将来の課題として、地方の特性を考慮した持続可能な政策、地方自治体に自立的なデジタル化への取り組み、住民の意思と関係人口の役割などの諸要素が組み合わさることで、地方自治体における新たなスマートネスの展開が可能となり、地域住民の生活向上と地域全体の発展につながると考えられるに至った。

文献

堤研二(2022)「ポストアーバン時代と地域的スマートネス」 『待兼山論叢』56. pp.55-70.

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