日本地理学会発表要旨集
2024年日本地理学会春季学術大会
セッションID: 505
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山間地域におけるユズ生産の拡大と二種類の経営発展可能性
高知県香美市の事例を中心に
*山﨑 恭平
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抄録

ユズは現在に至るまで一般的に条件が不利とされる中山間地域を中心に生産され,中山間地域の貴重な収入源となってきた。さらに,多くの農作物生産が縮小していく中,現在まで拡大を続けている稀有な品目である。しかし,「地域おこし」の文脈で,ユズ加工品製造・販売で大きく成長した馬路村は全国的に良く知られているが,馬路村以外のユズ産地や,産地研究の分野でユズはほとんど注目されてこなかった。

 そこで発表者は,ユズ産地の特性やユズ生産を支える農業構造を明らかにするために,継続的に調査研究を行っている。昨年度行った高知県に対する調査研究によって,ユズは産地ごとに主力とする販売方法(生果出荷・果汁出荷・加工品出荷)とその組み合わせが異なるために,多様な産地の特徴を有していることが分かった。またその中でも安芸市では,山間部の農家の生産力低下,及び米などの他の品目の価格低下によってユズが相対的に有利な品目になったことで,平野部の農家が水田をユズに転換してユズ生産に参入するという,ユズ生産の重心移動が起きていた。

 今回は高知県のユズ産地の中でも,生果生産・販売が中心である香美市に注目して,多様な経営形態を持っているユズ生産農家計29戸への農家調査を行った。他のユズ産地の出荷量に占める生果出荷量が約10%前後であるのに対し,香美市は概ね50%以上で推移するという,特異な生果率を誇っている。特に中山間地域で広く起きている過疎化・高齢化のなかで,ユズ生産がどのような農家によって担われているのか,その変化に注目した。

 その結果,安芸市と同じくより労働条件の良い平野部(物部町→香北町)へというユズ生産の重心移動が起きていることが確認できた。一方で,経営拡大の方向性として,平野部において面的拡大を基調とする経営拡大以外にも,少ない斜面を活用しながら土地生産性・労働生産性を高めることで,高齢小規模農家でも高い販売金額を達成するという経営タイプが出現していた。また,この高生産性経営の存在が,地域の若手農家にとっての目標となることで,2つの経営発展経路を有する産地となっていることが明らかとなった。

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