日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 405
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えちごせきかわ大したもん蛇まつりにおける担い手の構成と意識
*貝沼 良風
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抄録

本研究では,新潟県岩船郡関川村のえちごせきかわ大したもん蛇まつり(以下,大したもん蛇まつり)を事例に,地域の祭りの担い手の構成と,その担い手の意識について分析する.

今日,住民交流の手段や地域のシンボルとして,地域にある文化資源をもとに創出された祭りが各地にみられる.こうした祭りには,地域住民組織,企業や行政の関係者に加え,地域外からの担い手がみられることも珍しくない.

担い手の意識については,先行研究の議論において,その祭りが持つ要素や,担い手の属性,居住地といった視角から分析されてきた.本研究では大したもん蛇まつりを事例に,市町村全域を単位とした祭りにおいて,担い手の立場や居住地の場所に着目して,担い手の構成の特徴と,その担い手の意識について分析することを通し,今日において祭りがどのように存立しているかを検討する.本研究はインタビュー調査の結果と関川村役場から得た資料をもとに分析する.

大したもん蛇まつりは1988年の地域振興を目的としたイベントの一つとして企画された,関川村にある伝承である大蛇伝説をモチーフとした大蛇のパレードを発端とした祭りである.この祭りは当初,村民全体が関わるイベントを作ることを目的として1人の住民が考案したものである.同住民が村長や各集落を説得した上で,村の全集落の住民を巻き込んだかたちで祭りは創出された.また,1967年に同村で発生した羽越水害の記憶を継承することもこの祭りの目的の一つである.

パレードで使用される大蛇は同村にある全54の各集落で制作された竹と藁の胴体を組み立てることによって作られる.大蛇を担ぐ担い手は村内外から集められ,村内の各集落の住民や当該地域の中学生,村外のボランティア団体など様々な団体から担い手が参加する.

大したもん蛇まつりは関川村役場と,おりのの会と呼ばれる有志の団体によって企画・運営が行われる.関川村役場は全体の運営を行っている.具体的には役場の各部署が担い手の募集や会場の設置,屋台の出店の管理といった役割をそれぞれ担当している.おりのの会は各集落による大蛇の胴体の制作の補助や,祭り当日における大蛇の曳行を指揮する.

大蛇のパレードは,初回から2年間は2日間をかけて村内全体を回るコースで実施されていた.しかし3年目以降はコースの距離の短縮と変更が繰り返され,2019年時点では老人ホームから始まり,いくつかの集落や同村の役場を通るコースでパレードが実施されていた.

大蛇のパレードの担い手のうち,各集落の住民の中から集められる担い手は,それぞれの集落が制作した胴体を担ぐことになっている.しかし,各集落の規模に差があり,自前の担い手のみで担当する胴体を支えることが困難である集落がみられる.そうした集落の胴体は,他の集落や各集落以外からの担い手も加わることで担がれている.

各集落以外の担い手は,関川村に立地する企業の支店や公共機関の職員,近隣の新発田市に駐屯している陸上自衛隊,村内の中学校の生徒,東京都の学生を中心としたボランティア団体などから参加している.特に学生ボランティア団体の参加は,所属していた同村出身の学生が,ボランティアとしての同村への貢献を目的に,2004年に団体の学生を連れて参加したことが発端である.

大したもん蛇まつりは,人口が多い,またはパレードのコースに立地する集落では,その集落の年中行事として定着しているといえる.特に,こうした集落ではパレードの後の慰労会も楽しみの一つとされている.しかし,インタビュー調査の中で,村外の担い手から,住民の盛り上がりに欠けていた集落の存在が指摘されていた.このことから,集落の規模や立地場所などにより,同じ村内の住民でも祭りへの意識に差異が生じていると考えられる.

住民以外の担い手は,関川村や祭りに対して,住民とは異なる立場から魅力やアイデンティティを捉えて参加している.たとえば企業の職員は,大したもん蛇まつりを有名な祭りとして捉えるとともに,職場の地域貢献の一環として参加していると述べている.ボランティア団体の学生は,初めて参加する場合,地域活性化への興味や,ギネス記録を持つ祭りへの興味などを動機としている.また,初参加の後に同村に愛着を持ち,毎年祭りに参加する学生もみられる.

このように,村内外の担い手が,それぞれ異なる意識を持って参加することによって祭りが存立しているといえる.そしてその担い手の意識は,村の内と外だけでなく,集落ごとでも異なると考えられる.

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