日本地理学会発表要旨集
2023年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 333
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モンゴルにおける日本留学の意味付けの変遷とその現在
*松宮 邑子
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抄録

1.高等教育熱と日本への留学  本報告では,学歴が重要視されるモンゴル社会において,日本留学への道がいかに開かれ指向されてきたかを,両国関係,とりわけ体制移行後の事情を中心に整理していく. そもそも,社会主義時代のモンゴルでは大学への進学機会は限定的であった.進学率は20%台を推移し,移行直後の1993年には社会・経済の混乱を背景に12.6%の最低値を記録した.その後,教育の自由化を受けた高等教育機関の乱立とともに進学率は急上昇し,2000年に30%,2009年には50%を超え,2021年には67.7%に達する.進学機会の拡充は希望者へと門戸を開いた一方で,大学間の教育レベルの差や量産された大卒者の就職難など,昨今は課題も山積する.教育の大衆化はまた,“学士卒業程度”ではステータスにならないといった風潮をうみ,修士修了以上の学位,あるいは海外での学歴が評価される時代に突入した.  モンゴルの国勢調査によると,海外長期滞在者のうち「留学」資格者は,2010年の39,641人から,2020年には41,819人とやや増えた.留学資格による滞在先の筆頭は韓国,2位はアメリカであり,日本は3位である.在留外国人統計(旧登録外国人統計)によると,移行直後の1991年には27人であった在日モンゴル人の数は,2001年に1,000人を超えて以降増加をたどり,2021年時点では13,000人超を数える.最も多い在留資格は留学であり,2020年で約3,900人,2021年では約3,300人と,総数の4分の1を占める. 2.日本―モンゴル関係の変遷と日本留学の需要  滝口(2020)によると,国交樹立以降のモンゴルから日本への留学生の流れは,日本―モンゴル関係の変遷にもとづき4つの時代に区分される. 体制移行以前・国費留学時代:両国の立場から日本語教育・日本留学ルートは限定され,若干の国費留学のみであった. ~2000年代前半・第一次日本ブーム時代:経済支援やテレビ番組の放送を通じた日本のイメージ向上により,日本語学習・日本留学を志す人が増加した. ~2010年代・留学先多極化時代:アジア・欧米への選択肢の広がりや,日本語学習者・留学帰国者のキャリア問題,東日本大震災を背景に,日本留学が斜陽となる. 2010年代後半~・第二次日本ブーム時代:日本における外国人人材へのニーズの高まり,欧米圏よりも学費が安く物理的距離も近いという利点,親世代となった第一次ブーム経験者からの評価を受けて,日本留学が再評価されている.一方で留学の目的や形態は変化し,「日本で“英語で”学ぶこと」を念頭におくなど,欧米圏への留学に向けたキャリア形成の足掛かりと化す一面もある.こうした流れは,現地における日本語教育の位置づけを変化させてもいる. 3.“日本留学フェア”にみる日本留学への関心  体制移行後,日本留学が開拓されていく過程で留学希望者の壁となったのは,留学に関する情報へのアクセスである.近年はインターネットやSNSなど選択肢が広がるなか,各種フェアへの参加もリアルな情報収集の機会となっている.2010年に開始した日本留学フェア(モンゴル・日本センターで開催)は,毎年,留学生の受け入れ拡充を目指す日本の大学および関係者が参加し,学校紹介や個別相談会のほか,大使館職員による国費留学制度の説明,帰国留学生による体験談の共有が行われる.13回目となる2022年の開催時には,2日間で2,000人超が参加する盛況をみせた. 参加者は日本語を学習中の大学生よりも,学士課程への入学を志望する中高生,3年次編入を目指す大学生や高専生,英語で修了可能なプログラムへの関心を持つ人が多くみられる.参加者の第一の関心は奨学金制度であり,留学に際しては経済面をいかにクリアするかが課題となっている.また生徒・学生とあわせて保護者の参加も多く,子どもへの教育熱の高まりがうかがえる.

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