日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 220
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地域住民への意識調査を通して多文化共生を目指す地域振興を考える
― 福岡市吉塚市場リトルアジアマーケットを事例に ―
*岩木 雄大上村 晶太郎黒田 圭介
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抄録

1.はじめに

 近年の商店街を取り巻く環境は厳しく,少子化による人口減少や後継者不足による空き店舗の増加,消費スタイルの多様化や郊外立地型大型店との競争など,様々な課題を抱えており,その状況は地域によって異なり,また時間の経過とともに変化している1)。また,令和4年6月末現在における在留外国人数は過去最高の296万1,969人で,前年末に比べ,20万1,334人増加,福岡県においては,85,065人で,前年末に比べ,8,831人増加しており,外国人の受け入れ・共生が求められている2)。 そこで本研究は,福岡市博多区吉塚地区の吉塚市場リトルアジアマーケット(以下吉塚市場)を事例に,多文化共生や地域振興を目指す企画者,日本人の商店経営者,新しく店舗経営者として入ってきた外国人,そして地域住民への意識調査をすることで,多文化共生を目指す地域にかかわる人々の心情を明らかにし,この地域独特な問題点を報告する。

2.研究方法

2-1.研究対象地域概観

 研究対象地域の吉塚市場について公式HPによれば3),その前身にあたる吉塚商店街は戦後の闇市を起点に発展した。1957年頃には商店街にアーケードが設けられ,1970~1980年代には150店舗ほどの店が軒を連ねた。しかし,近隣への大型商業施設の林立,吉塚商店街からのスーパーの撤退,店舗の老朽化,店主の高齢化,後継者不足などの影響で,商店街は縮小し,店舗は30店舗まで減少した。そのような現状に対し,西林寺の住職を中心に「吉塚商店街・景観再生プロジェクト」を計画し,その取り組みの中でウォールアートを地域の子供たちや外国人留学生とともに描いた。ここでの地域住民と外国人の交流をきっかけに,吉塚商店街組合長らと「吉塚市場リトルアジアプロジェクト」を策定,2020年9月,経済産業省の「商店街活性化・観光消費創出事業」に採択され,同年12月に「吉塚市場リトルアジアマーケット」として再オープンした。

2-2.調査方法

 福岡市博多区にある吉塚市場の運営事務局や各店舗経営者,利用客に対して,吉塚市場の印象や,外国人との多文化共生に対する意見などの聞き取り調査を行った。聞き取り調査件数は26店舗であり,これは吉塚市場の店舗数の約90%にあたる。 3.聞き取り調査結果

3-1.企画者への聞き取り結果

 吉塚リトルアジアプロジェクトを企画した西林寺の住職によると,吉塚は決して成功事例ではないとの見解であった。当初の想定としては,カンボジアのオールドマーケットのような日常的に人々が利用する空間 を目指していたが,日本の物価高で日常的利用までは至らず,加えてリニューアルがコロナ禍と重なり,外食文化のある外国人も外食を控えるネガティブな誤算があった一方,当初の想定よりも日本人の若者の利用が多かったことが挙げられる。これは,新聞や全国放送のテレビ番組で特集されたことが大きな要因となっている。

3-2.店舗経営者(日本人)への聞き取り結果

 吉塚市場の取り組みは賛否両論に分かれた。賛成側の意見としては,シャッター通りにするよりも,若い人が利用できる空間として,商店街を開放するべきという意見があった。また,応援しているが,リニューアル当初に比べて,外国人が来なくなっていることを憂う意見などが聞かれた。一方で,反対側の意見は,前述した創出事業に採択された後に,リニューアルが店主に伝えられたことに対して困惑があったことや,当初の計画と異なる部分,例えば,ミャンマーから輸送されてきた釈迦像が設置されている吉塚御堂が建立されたことが挙げられる。

3-3.店舗経営者(外国人)への聞き取り結果

 日本人や外国人に限らず,近隣の店舗経営者とも友好関係が築けており,釈迦像やガネーシャ像を含め,吉塚市場の雰囲気は好評だとの意見があった。聞き取り調査の結果から,消極的な意見は聞かれなかった。

4.まとめ  本研究では,多文化共生を目指す地域振興にかかわる人々の心情を聞き取って,地域の振興に対する地域独特な問題点を見出した。以下に結果をまとめる。

1)店舗数が激減し,いわゆるシャッター通りとなった吉塚商店街は,企画者主導により,吉塚市場「リトルアジアマーケット」としてリニューアルした。マスコミを通じて知名度は高まり,新たにやってきた外国人店舗経営者の吉塚市場に対する取り組みの評価は好意的であった。

2)日本人の吉塚市場の店舗経営者には困惑が見られ,例えば,商店街のリニューアル決定が事後報告された,当初の計画とは異なる施設が建立された,などが挙げられる。

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