日本地理学会発表要旨集
2023年日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 316
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「新型都市化」政策下の中国における地域間所得格差は拡大したか?縮小したか?
~「全体住民の1人当たり可処分所得」による省間と省内の格差分析及び人口移動の影響について~
*魏 晶京許 衛東
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抄録

.問題の所在と報告の趣旨

遡れば,「戸籍問題」に象徴されるように格差は中国社会の固有の歪みであり,未完の改革課題でもある。とりわけ,沿海と内陸,都市と農村,そして富裕層と持たざる者の下層社会などの格差が改革後より顕著になったと多くの研究によって指摘されている。では,近年の「新型都市化」政策(2014~)の下で格差是正の狙いが,達成されうるのか? 本報告では,「都市-農村」という従来の二元的・対立的な統計区分と異なる,2013年以降に導入された「全体居民可支配收入」,すなわち日本の県民所得の概念に近い「居住者可処分所得」の指標を用いて,省・地級市・県などの行政地域間の所得格差という従来の研究空白を解明し,加えて「新型都市化」政策と関連した労働力移動,移住,人材フロー(大学生就職など)の社会的・経済的変化の空間特性を摘出する。

.中国の地域間所得格差の到達点と問題点 中国における地域間格差と形成要因に関する諸研究は先行研究の全体を通して、直接可処分所得を扱う統一的地域分類・地域分析のケーススタディはまだ少ない。 本報告では、中国の地方統計年鑑を全て網羅し,1人当たりの可処分所得に関する変動係数と人口の重み付きの加重変動係数を用いて、地理的パースペクティブによる近年の各行政地域間の格差変化に迫り、さらに人口流動などへの空間的影響を探る。

.省間格差と省内格差の検証

第1に,長期的にみれば、2005年から22年までの間,省間1人当たり可処分所得の変動係数は0.517から0.38,人口の重み付き加重変動係数も0.404から0.322まで下降するなど,格差の縮小傾向は顕著である。

第2に,2005~12年は主に沿海工業化・都市化の拡散効果による中部地域の個人所得の成長が著しかったが,2013~現在は最貧困地域の底上げ投資の重点化に伴って成長の軸心が変わりつつある。総じて,開発経済学で論じられたルイスモデルの転換点とその多様性が特色として認められる。

.人口流動と人材流動  人口流動を促す要因として所得格差の影響は大きい。労働力移動の時系列変化でみれば,近年,省内流動が省間流動を凌駕するようになった。なお,沿海地域(浙江省の事例)は依然として人口吸収の余力を持つが,内陸(山西省の事例)では大都市以外の地域は所得増の機会を失い,長期的に人口減に陥っている。

.結びー「新型都市化」政策の成果と課題 成長地域への人口集中と大都市現象は格差拡大の強い働きを示唆している。今後、格差縮小に貢献する移転所得の財源確保・均衡財政制度の理念と整備手法が問われる。

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