日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 447
会議情報

首都圏郊外における墓地立地と規定要因
千葉市内墓地を中心に
*鈴木 勇人
著者情報
キーワード: 墓地, 立地, NIMBY, 首都圏郊外
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ はじめに

 現在,日本における墓地・葬送をめぐる社会情勢は転換期にある.少子高齢化や家制度の揺らぎに伴い樹木葬など新たな墓地・葬送形態が定着する一方,墓地の需給面でも変化がみられる.大都市圏郊外においては戦後の人口増加で,墓を持たない人々が急増した.団塊の世代などこれらの人々の多くは今後大都市圏郊外で死を迎えるため,大都市圏郊外の墓地需要は増大すると考えられる.特に首都圏(一都三県)では今後の死亡数増加が大きい.他方,墓地はNIMBY施設としての一面がある.墓地の立地は法や条例で規制されているが,近隣住民の反対による計画の変更・中止の例もある.特に宅地開発などが進んできた大都市圏郊外では墓地需要増大の一方で立地・供給の問題が生じやすいといえる.

 現代の墓をめぐる既存研究では,墓と社会情勢,墓地立地の様相などが明らかにされてきたが,墓地の立地に至る経緯や墓地の立地地域の特徴については十分には考察されてこなかった.

 そこで本研究では,首都圏郊外の事例地域を取り上げ,墓地立地の特徴を分析して実態を把握するとともに,制度面での制約や地域で墓地の設置に関わる諸主体の関係を分析し,首都圏郊外での墓地立地の変遷と規定要因を考察することを目的とする.

Ⅱ 研究対象地域と方法

 本研究では具体的な研究対象地域として,首都圏郊外に位置し,高度経済成長期以降近年も宅地開発が継続している千葉県千葉市を取り上げる.研究方法については以下の通りである.立地分析に関しては,墓地台帳に基づく1948年から2020年の新設墓地(民間86件,公営4件の計90件)の立地時期・規模・住所・経営者のデータを千葉市保健所から入手し,GISを用いた.さらに墓地の設置場所・時期の選定理由等を,民間墓地経営者(55法人)への郵送によるアンケートで調査し12法人の回答を得た.そのうち2法人の経営者には立地の経緯の詳細等についてヒアリング調査を行った.墓地行政については県・市の条例・規則の変遷を調査し,市による市民・民間墓地経営主体アンケート等を調査するとともに,市担当課へのヒアリング調査を行った.

Ⅲ 結果と考察

 本研究から得られた主な知見は以下の4点である.

 ①墓地立地は,墓地の経営主体,調整主体であり供給主体でもある地方公共団体,地域住民と,国の墓地行政や周辺地域の墓地需給状況という地域内外の複数の主体・環境要因の相互の関係の中で決定される.条例や規則などの法的規制は墓地立地の重要な規定要因であるが,経営主体は規制下で墓地経営の目的と意図に沿った立地場所・時期の選択を目指す.②千葉市における墓地立地の全体的な特徴は,宗教法人経営がほとんどであること,沿岸部になく内陸部に集中すること,旧市町村界や立地時の市街地の境界に立地することである.③千葉市における墓地立地の変遷は,その特徴と関係する諸主体の関係の変化から, 1970年代まで,1980年代,1990年代,2000年代以降の4つの時期に区分できる.1970年代までは墓地の新設が増加,大規模墓地が市街地周縁地域に立地した.1980年代には新設数が減少するが,1990年代は小規模墓地を中心に新設が増加し,交通利便性の高い市街地に近接した立地もみられるようになる.2000年代以降は新設数が減少,小規模化が進んだ.④全体的な墓地立地の変化と諸主体の関係をまとめると,市街地の拡大,大規模墓地の開発,墓地の立地傾向の変化は地域住民の墓地立地反対運動を引き起こした.千葉市が首都圏郊外に位置し,宅地開発が進展した一方で墓地需要が大きく結果として墓地と住宅地が近接しやすいことが背景にあった.この結果,墓地の立地に関する規制が強化されたことで,墓地新設数の減少,墓地の小規模化,経営主体との近接化が進んだ.特に1990年代以降,墓地計画に対する地域住民の動向がその墓地計画だけにとどまらず条例や規則などの千葉市全体の制度変更に大きな影響を与えている.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top