日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 406
会議情報

知床世界自然遺産における海岸漂着物に関する研究
*西川 穂波小林 勇介白岩 孝行
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

Ⅰ.はじめに  

 北海道の北東部に位置する知床半島は,海と陸を介する豊かな生態系や生物多様性が評価され2005年に世界自然遺産に登録された場所である.豊かな自然環境がある一方,遺産地域を含む半島沿岸部には多くの海ごみが漂着する.半島西側に位置するルシャ地区の海岸はごみの漂着量が多い地域の一つであり,ごみと流木が海岸線に沿って大量に堆積している.地元自治体やボランティアによる海岸清掃が年1回程度行われているが未だ多くのごみが残置されたままである.効果的な海岸清掃には現存するごみの動態を明らかにすることが重要だが,この地域での漂着ごみの研究は限られ,特にその季節変化や漂着・流出機構は未解明の課題である.そこで,海岸観測から漂着ごみの特性及びごみの漂着・流出過程の解明を本研究の目的とした.

Ⅱ.研究方法

 海岸に調査区画(10 m×30 m)を二つ設置して区画内のごみを収集後,8種類(プラスチック,布,発泡スチロール,ゴム,金属,ガラス・陶磁器,紙,その他人工物)に分類し,それぞれの個数と重量を計測した.また,ごみを産業廃棄物と一般廃棄物とに分けて同様に個数と重量を計測した.本研究では,流木や礫に埋まっているごみは対象とせず,表面上の目視可能なごみを収集対象とした.海岸の地形変化を調べるためにRTK-GNSS搭載のUAV(Phantom4 RTK, DJI)を用いて写真測量を行った.SfM-MVS解析によって空撮画像から海岸の3Dモデルを作成し,2時期のDSMとオルソモザイク画からGISを用いて漂着ごみの堆積位置を比較した.更に,Time Lapse カメラを海岸に設置して,約1年間撮影を行った.撮影した映像からごみの漂着・流出時 期やその過程を調べた.

Ⅲ.結果と考察

 収集した漂着ごみを分類した結果,個数では全体の9割以上がプラスチックであった.重量でもプラスチックは全体の約8割~9割を占めていた.一般廃棄物の重量は二つの調査区画でそれぞれ14 kg ~ 40 kgであったのに対して,産業廃棄物の重量は170 kg ~ 735 kgあり重量差が大きかった.産業廃棄物は主に漁網やロープ等の漁業系廃棄物であった.2020年11月と2021年10月のオルソモザイク画像を比較した結果,海岸の一部で漂着ごみの堆積状態に変化が見られた.Time Lapseカメラの画像から,2020年12月中旬に海岸に打ち寄せた波によってごみの流出や陸側への移動が起こっていた.次に,堆積状態の変化が起こる時期を網走沖の波浪データを基に考察した.波高約4 m~5 m の波が高い日が数日続いた際に,海岸では堆積状態の変化が起こることが示唆された.このような波は隔年で発生しており,その度にごみの漂着量や位置が変化している可能性が高い.一方,波の影響をほとんど受けない陸側に堆積するごみは長期間同じ状態を維持していると考えられる.したがって,新たな漂着や流出が起こりづらい陸側のごみから回収していくことで海岸美化の促進が期待できる.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top