日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 303
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農産物の地域ブランド構造に関する研究
狭山茶とかごしま茶を事例として
*木村 美月観山 恵理子
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抄録

Ⅰ 研究背景と目的

 農産物のブランド化においては少量生産かつ規格化になじまないという課題を抱え,かつ農産物はどの地域で生産されたかが重視されることから,産地一帯でまとまって特産物のブランド化を行うことや,産地をまとめブランド化を主導する主体の存在を前提とした議論が多くなされてきた.  

 茶の地域ブランドは,梶原(2012)においてブランド化の主体の不明瞭さや食味等の標準化が課題として挙げられているが,産地ごとの銘柄は確かに存在している.本研究では狭山茶及びかごしま茶を事例として,地域ブランドが誰によってどのように構築されているか,ブランド形成主体がどのような関係を結んでいるのかという地域ブランド構造を明らかにし、産地内部に多様性を抱える地域ブランドのありかたについて検討することを目的とする.

Ⅱ 研究方法  

 研究の方法として,いるま野農協,自園自製自販の形態をとる狭山茶の茶園,JA鹿児島県経済連,かごしま茶の買入、精製加工及び販売を行う企業を対象としてブランド化に関する半構造的な聞き取り調査を行い,一般的なブランド論とそれに基づく農産物ブランド論を踏まえ,それぞれのブランドの形成主体,形成過程,現状を比較,検討した.

Ⅲ 結果と考察

1) 狭山茶の地域ブランド構造

 狭山茶は一定の知名度を持ち,自園自製自販という生産から販売までを各茶園が行う流通が主流である.園ごとに個性ある茶づくりがなされており,狭山茶全体を取りまとめブランド化を率いる主体が不在であることから,狭山茶全体での品質や食味の標準化は難しい.狭山茶では,狭山茶ブランドを基盤として各茶園が主体となった個人ブランドが多様な展開を遂げ,消費者との信頼関係を築いている.狭山茶ブランドは個人ブランドを知名度の点で支え,個人ブランドによって消費者から得られた信頼が基盤となる狭山茶ブランドを支えていると考えられる.

2)かごしま茶の地域ブランド構造

 鹿児島県茶業会議所という県全体を取りまとめる大きな主体によって銘柄確立のための広報・宣伝業務や認証制度等のブランド化がすすめられている.鹿児島県内の主要な荒茶産地は約15存在し,その中でも知覧や霧島といった有名産地は仕上げ茶流通段階の段階でも地名が銘柄として残されるケースが多い.つまり,茶業会議所による品質保証の上で,荒茶の産地によってはその知名度を生かしたブランド化がなされていると考えられる.

 以上より,両事例において地域ブランドは重層性をもち,都道府県レベルのブランドを基盤としてその上に個人や市町村レベルのブランドが複数存在していると言える.そしてそれらの関係性やブランド化の主体は産地ごとに異なるが、都道府県レベルブランドと個人・市町村レベルブランドは独立した存在ではなく,前者が後者を支える形で地域ブランドが構築されていると考えられる.

文献:梶原勝美 2012. お茶のブランド・マーケティング.社会科学年報46:3-15

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