日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 509
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高時間・空間分解能での独自地上観測から判明した清川だしの吹走範囲
*小野寺 平日下 博幸
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抄録

1. はじめに

清川だしは,山形県庄内平野の最上峡谷出口付近で吹く局地的な東寄りの強風である.吉野(1986)は1950年1月18日に地上風観測を実施した.その結果,清川だしの吹走範囲は最上峡谷出口付近から庄内平野の中央部に限定された(以降,狭い清川だしとする).一方で,山岸・加藤(1996)はAMeDASデータから,佐々木ほか(2004)は集中気象観測から,それぞれ最上峡谷出口付近に限定せずに強風が吹走する(以降,広い清川だしとする)場合があることを指摘した.吹走範囲を明らかにした例は吉野(1986)によるものに限られ,しかも1時刻の地上風分布を描いたのみである.また,AMeDAS観測データを用いた山岸・加藤(1996)の解析では観測地点が限られるため清川だしの吹走範囲を判断するには不十分である.そのため清川だしの吹走範囲の詳細については解明されていない.そこで,本研究では20年間のデータを用いた統計解析を行うことで狭い清川だしと広い清川だしがどの程度存在するのかを調査し,清川だしの吹走範囲を高時間・空間分解能での独自地上気象観測によって確かめた.そして,数値シミュレーションを用いて清川だしの吹走範囲はどのように形成されているのかを明らかにした.

2. 清川だしの解析

 使用データは,1999年1月1日~2018年12月31日の狩川におけるAMeDAS観測データ(10分間平均値)である.清川だしの先行研究や地元住民の認識を参考に狩川での日最大風速が10.8 m/s以上で,そのときの風向が東~南南東の日を清川だし吹走日とし(計172日),下限風速3.4 m/s以上かつ同風向で事例ごとに整理した.その結果,清川だしは6450時間となった.以降,前述の方法によって抽出された事例を本研究の清川だしとする.このうち狭い清川だしが吹走する時間は2473時間30分,広い清川だしが吹走する時間は2802時間20分となった.

3. 高時間・空間分解能での独自清川だし観測

 次に清川だしの詳細な吹走範囲を明らかにするために,本研究では庄内地方ののべ16か所に測器を設置して高時間・空間分解能での長期地上気象観測を実施した.2021年3月20日6:40~2021年3月21日13:40 (JST)に吹走した清川だしの吹走範囲は,吹き始めには最上峡谷出口付近に限定し,最盛期には吹走範囲が拡大して庄内平野の広範囲に及んだ.つまり,清川だしには吹き始めから最盛期にかけて吹走範囲が拡大する「遷移型」が存在することが明らかとなった.

4.領域気象モデルWRFを用いた清川だし再現実験

 観測された遷移型清川だしを対象に領域気象モデルWRF (Weather Research and Forecasting)を用いて再現実験を行った.このときの気圧配置は,高圧型から日本海低気圧型に遷移した.再現の結果,地上風分布は観測結果とよく一致し,吹走範囲の時間変化が再現された.清川だしの流れのレジームを検討した結果,吹き始めは最上峡谷の風下でのみおろし風が吹走するために清川だしの吹走範囲が限定されること,最盛期は出羽山地風上側の風速が大きくなり,おろし風が庄内平野で吹くために清川だしの吹走範囲が拡大することが明らかとなった.なお,吹走範囲の遷移は出羽山地風上側の風速の増大が主な要因であった.

5. 結論

 独自気象観測の結果,吹き始めから最盛期にかけて吹走範囲が遷移する清川だしが存在することが明らかとなった.再現実験の結果,吹き始めはおろし風が最上峡谷風下に限定して吹きやすく,最盛期は出羽山地のおろし風が吹きやすいために吹走範囲が拡大することが明らかとなった.また,出羽山地風上側の風速が増大することで流れのレジームが遷移し,清川だしの吹走範囲が拡大することが判明した.

謝辞

 本研究の一部はJSPS科研費JP19H03084の助成により実施されました.

参考文献

佐々木華織・菅野洋光・横山克至・松島大・森山真久・深堀協子・ 余偉明 2004: “清川ダシ” 吹走時に観測された強風域および風の鉛直構造の特徴. 天気, 51: 15-28.

山岸米二郎・加藤廣 1996. 山形県北部の局地強風の発生機構の考 察. 研究時報, 48: 3-14.

吉野正敏 1986. 『新版小気候』地人書館.

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