日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 244
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熊本県益城町における災害公営住宅の生活利便性
*劉 源鹿嶋 洋
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抄録

1.はじめに

 自然災害が頻発している日本において、被災者の住宅の確保が災害後の復旧・復興における最重要課題の一つとして注目されている。そのうち、自宅を再建できない被災者にとっては、行政から供給される災害公営住宅が安住の地となる。しかし災害公営住宅に関する既往研究では、①生活の利便性、②近隣との無縁可能性、③高齢者世帯の多数性、といった問題点が指摘されている(佐久間 2018)。そこで本研究では熊本地震の被災地である益城町を取り上げ、生活施設への近接性の分析と居住者による生活環境の主観的評価に基づき、災害公営住宅の生活利便性を明らかにすることを目的とする。

2.対象地域と研究方法

 益城町は熊本市の東に隣接し、布田川断層帯および分岐断層が町内を東西に貫いている。2016 年 4 月の熊本地震で益城町は最大震度 7 を 2 度にわたり観測した。それによりほぼ全ての住家が何らかの被害を受け、全壊と半壊が 6,259 棟、全体の 58.2%を占める。被災者向けの災害公営住宅は、できるだけ被災前の居住地の近くに入居できるように小学校区ごとに整備されることになり、合計 19 団地、671 戸が建設され、2018 年11 月から入居が始まった。

 本研究ではまず、災害公営住宅から道路距離 1,000m以内の食料品店・金融機関・医療機関など生活施設への近接性について GIS を用いて分析し、災害公営住宅の生活利便性を客観的に評価した。次に、災害公営住宅の居住者への訪問調査を通して、入居者の生活の現状と生活環境の主観的な評価を把握した。

3.生活施設への近接性

 生活施設への近接性の分析を通して、災害公営住宅団地の生活利便性の地域差が客観的に存在することが明らかになった。生活施設への近接性が高い市街地部と比べて、集落部では生活施設が近隣に少なく、集落内部で日常生活を充足できなかった。また、市街地部においても校区による利便性の差があることを確認できた。

4.生活環境の主観的評価

 災害公営住宅の入居者への訪問調査により、市街地部と集落部では入居者による生活利便性の評価が異なることが明らかになった。市街地部での居住者と比べて、集落部での居住者は買い物利便性を相対的に低く評価していた。一方、市街地部での居住者より集落部での居住者の方が近所づきあいや生活満足度を肯定的に評価する傾向にあった。

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