日本地理学会発表要旨集
2022年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 335
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発表要旨
非集計データを用いたモンゴル国・各地域の家計構造の分析
*松宮 邑子
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抄録

はじめに

本報告の目的は,非集計の統計データを用いて,モンゴル国の各地域における家計構造の違いを明らかにすることである.所得格差や貧困指数は地域間の格差をあらわす指標として示されるが,本報告では非集計データを用い家計構造をみることで,通常目にする「結果」としての数値が実際にはどのように構成されているのかを紐解いていく.モンゴルでは首都ウランバートルへの一極集中が進み,首都とその他の地域との差が拡大した,そのことが移住を促す要因の一となっている等と指摘される.非集計データを用いた分析からは,格差の拡大や縮小,貧困の深刻化や改善についても,それらが家計構造のいかなる部分の変化によってもたらされるのか,といった点から検討できよう.  分析では,とりわけ県都ならびに郡都に着目する.モンゴル各地の生活については,長年にわたり遊牧地域が主たる研究の対象となってきたほか,近年ではウランバートルにも関心がもたれつつある.しかし遊牧地域と首都以外に暮らす人々の生活については看過されており,その実態は ベールに包まれている.県都・郡都をふくむ家計構造を検討することで,地方定住地の実態を描きだす一助としたい.

用いるデータについて

本報告で使用するデータは,モンゴル国家統計局が公開するHousehold Socio-Economic Surveyである.この統計は2002・2003年から連年または隔年で実施されている家計調査であり,計13回分の非集計データが公開されている.調査では,全国をウランバートル/県都/郡都/遊牧地域の4地域にわけ,各地域からランダムに抽出した世帯を対象に数回の訪問調査を実施している.年度により項目の詳細は異なるものの,世帯ならびに世帯構成員の基本情報や,職業,収入,支出などの情報は共通する.今回は公開されているもののうち最も古い2002・2003年と最新の2019年,中間の2010年を使用する.

地域の区分

モンゴル国の統計では,人口は「Urban」と「Rural」に大別される.国の地方行政区分は,県(アイマグ)―郡(ソム)―バグで階層化されており,首都ウランバートルは独立した存在として県と同等に扱われる.ウランバートルの人口はすべてUrbanに含まれるが,県や郡,バグは,それぞれの階層ごとにUrbanとRuralの属性別に集計される.これに対し本報告で用いるHousehold Socio-Economic Surveyでの区分は先の4つであり,そのうちウランバートルと県都がUrbanに,郡都と遊牧地域がRuralにカウントされている.郡都はRuralに含まれるものの,その名の通り,役所や学校,診療所,売店や娯楽施設などが立地し定住的な生活が営まれる場であり,遊牧民にとって最も身近な定住地である.よって,本報告では県都と郡都を地方定住地と認識する.それぞれの人口規模は,ウランバートルには全国人口の48%にあたる164万人が集積し(2021年),圧倒的な規模をもつ.県都は1~4万人,郡都は1000人~1万人と幅がある.

以上を踏まえ報告では,地域間・地域内の双方の差に注目しながら,各地域の世帯の稼得・就業状況についての分析結果を示し議論する.

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© 2022 公益社団法人 日本地理学会
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