日本地理学会発表要旨集
2021年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 279
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発表要旨
地域格差からみた都市郊外地域の持続性について
近畿大都市圏を事例に
*曹 奕
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抄録

はじめに

 ここ数十年間の日本の都市化を振り返ってみると,大まかに都市化・郊外化・都心回帰のプロセスが見られ,都市人口移動の主流は流入・流出・再流入としてとらえられてきた。都市化の進展の中,都市圏中心部の過密化によって製造業や商業が郊外に移転することに伴い,郊外における雇用と人口増加が見られた。こうした郊外化の傾向の中,郊外地域はもはや中心部に強く従属しなくなり,地方自治制度下で発展していき,都市圏中心部以外にも小さな中心が形成されるなどした。

 大都市圏郊外は高度経済成長期以降の急激な人口増加の受け皿として開発された箇所があり,現在の住民の加齢や都市機能の弱体化は,その地域にさまざまな形で影響を及ぼし始めている。このような背景の中,大都市圏郊外において人口高齢化の動向に対する注目は必要であろう。

 郊外でも,核とみなされる人口と都市機能が集積して高密度化している地域と,高齢化および人口流出が進むことによって衰退が見られる地域がある。都心部と郊外を比較した研究は少なくないが,郊外地域の中の地域差という視点からの研究は多くはない。これまでの研究における地域格差と人口との関連性への注目点では,人口移動が媒介となって地域格差が生ずるものと考えられてきた。そこで,本研究では大都市圏郊外の人口減少と高齢化の背景として捉え,郊外地域の人口の動態と構成による地域格差に着目し,郊外の持続性について展開したい。

調査地域の概要と研究方法

 近畿大都市圏は日本国内において,首都圏に次ぐ規模の都市圏であり,本研究の事例地域となる近畿大都市圏の郊外の定義について,京都市・大阪市・堺市・神戸市を中心都市とし,都市雇用圏の定義により中心都市への通勤率が10%以上のものを郊外市町村とする。2010年国勢調査のデータに基づき,合計97市町村が郊外に該当する。

 本研究では97市町村に関する統計データを収集し,高齢化などの背景によってどのような地域格差が形成されているかについて明らかにするため,人口属性や人口構成の指標を用いて多変量解析を施す。主成分分析によって変数を集約し,次はクラスター分析で似たような地域をグループに分け,グループごとにその地域格差の実態と形成要因となる変数を説明する。また,類型化の結果からよりミクロな事例地域の研究に進み,郊外地域の持続性について検討を深める。

分析結果

 主成分分析に用いる変数群は,現状把握のため郊外地域の人口構造や労働力状態に関わると思われるものを採用した。主成分分析によって6つの主成分が抽出された。また主成分の得点を用いてクラスター分析による類型化作業を行い,結果5つの類型が得られた。この後の分析では,個別地域の考察へ進み,これらの地域類型の形成要因および持続性課題について検討する。

参考文献

石川雄一1996.京阪神大都市圏における多核化の動向と郊外核の特性.地理学評論69A:387-414.

長沼佐枝・荒井良雄・江崎雄治2006.東京大都市圏郊外地域の人口高齢化に関する一考察.人文地理58:63-76.

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