日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P135
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発表要旨
平成30年7月豪雨の被災記録資料の地図化の試み
−防災教育での利用に向けて−
*竹内 峻後藤 秀昭熊原 康博東広島市
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抄録

自然災害の発生は稀な現象であり,災害が多発する現代社会でも,被災経験のある人は限られる。また,土砂災害のように,同一地点での発生頻度が数世代よりも長いものが多く,災害にあった人々の経験を伝えることは容易でない。昨今,防災教育の普及と強化が叫ばれるのは,このような災害発生間隔の長さと,経験伝達の難しさが,重要な背景のひとつと考えられる。

 近年,デジタルカメラやスマートフォンの普及によって,災害発生直後の様子は,大量の写真で記録されるようになった。市役所などの地方公共団体では,被災状況の把握と,復旧計画の立案のために,現地写真を添えた被災状況を記録した調査票を作成することが多い。この調査票は被害の状況を記した貴重な資料であるが,復旧が進むにつれ,当初の目的が達成したとして,忘れられていく存在となりやすい。

 東広島市と広島大学は共同研究として,平成30年7月豪雨の調査票に添えられた写真の撮影場所を特定し,地図化することで,災害の状況を伝える資料の作成を企画した。Web地図で閲覧できる地理データのほか,紙地図として提供することで,地域の防災教育や学校教育の地域学習で利用しやすいものとした。これにより,身近な地域で発生した被害にもかかわらず,短時間で復旧し,報道等で扱われることがなかったために,多くの地域住民にとって知られることのなかった状況が閲覧できるようになった。被害の状況を空間的に把握できる地図と,その詳しい内容がわかる写真が結合しており,後世の人々にも円滑に災害の状況を伝えられる貴重な資料となったと考える。本発表では,その作業の内容や成果とともに,活用の方向性について報告する。

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