日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P123
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発表要旨
社会的な存在としての外来種
―農業分野におけるジャンボタニシを事例として―
*西尾 さつき
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抄録

本研究は、侵略的外来種であるジャンボタニシを取り上げ、農業における外来種と人間の関係を検討するために、日本における農薬関係企業と農家という二つの具体的なアクターを中心に調査を実施した。

まず、ジャンボタニシの生態や、それによる影響について、また、ジャンボタニシに対する制度が現況に至るまでの流れと、現在までに提唱されている被害への対処の方法を整理した。次に、農薬を製造する農薬業界を取り上げ、農薬販売数の統計データと、国内の農薬関係会社6社への聞き取りと国外メーカー2社へのメールインタビューをもとに、ジャンボタニシを駆除する農薬が販売される背景を精査した。さらに、ジャンボタニシへの対策が科学知として形成される一方で、個々の農家はいかにジャンボタニシを認識し、被害へ対応をしているかを、愛知県大口町の農業オペレーター4戸、三重県松阪市の大規模農家2戸への聞き取りをもとに述べた。加えて、ジャンボタニシを利用した農法、ジャンボタニシ除草へ注目し、これが成立する経緯を整理し、さらにこれを支える社会的背景・要因について、福岡県の農家10戸を対象に行った聞き取りとから明らかにした。最後に、福岡県内のジャンボタニシ除草利用農家と、非利用農家の間にある差異について、統計分析を用いて各農家へ行ったアンケート結果の検討を行った。

以上の検討を通して、直接ジャンボタニシと接する農家は、その生態を良く観察し、経験知を蓄積しながら、駆除を行ったり時には利用したりしてきたことが明らかになった。さらにその背景には農家以外のさまざまなアクター、またジャンボタニシの生態や外来種としての性質が関係していることが示された。日本社会におけるこの侵略的外来種は、複雑な関係の中に置かれている社会的な存在であり、こうした視点を持つことは、今後外来種に関する問題の解決を試みる際にも、重要であるだろう。

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