日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 521
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発表要旨
長野県伊那谷における春季低温イベントのNHRCMによる再現性と将来変化
*遠藤 伸彦西森 基貴
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抄録

1. はじめに

長野県伊那谷中部に位置する松川町・中川村・高森町・豊丘村・飯島町では,リンゴ・ナシ・カキなどの果樹栽培が盛んである.2019年5月にこれらの果樹が強い放射冷却に伴う低温により霜害にあった.

本報告では,農研機構・メッシュ農業気象データ(メッシュデータ)を用いて伊那谷における春季の低温イベントの出現と霜害の対応関係を検討し,さらに気象研究所NHRCMによる現在気候再現実験ならびに2℃上昇実験出力(全球平均で気温が2℃上昇した世界)を用いて低温イベント頻度の将来変化を検討する.

2. 低温イベントと霜害

長野県が出版した『長野県の災害と気象(平成元年〜平成30年.ただし平成22年は欠)』によると,当該5町村では,霜害は4月中旬頃から5月中旬頃に発生した.平成の29年間で18回の霜害が報告されている.なお一年に複数回の霜害が報告された年も存在する.

メッシュデータによると4月中旬から5月中旬に日最低気温が0℃未満であった日の頻度は霜害発生件数よりも多い.だが,霜害のポテンシャルの将来変化を検討するという観点からは,日最低気温が0℃度未満の日数を霜害の指標とすることは問題にならないであろう.

3. 霜害ポテンシャルの再現性と将来変化

NHRCMの時別出力から日本時0時を日界として,日別最低気温をもとめ,各3次メッシュに逆距離荷重法で内挿した.モデルと標高差に対して,100 mあたり0.6℃の補正を行った.また国土数値情報土地利用細分メッシュデータから居住地・田畑の存在するメッシュだけを抽出するマスクを作成した.

当該地域の果樹園が広がるある1メッシュにおける日最低気温の頻度分布を例として図1に示す.NHRCMの過去再現実験はメッシュデータに比べると最頻値はほぼ同程度だが,0℃以下の頻度が相対的に多い.また伊那谷中部では, 0℃以下の頻度が北部で多く,南部で少ないという空間分布パターンは両者でよく似ている.

過去再現実験と2℃上昇実験の0℃以下の頻度を比較した.当該地域では,2℃上昇した将来気候下では標高が相対的に高い領域(北側)でより減少傾向が強い(図2).また現在でも0℃以下の頻度が少ない領域南部では変化は小さい.ただし,過去再現実験が低温バイアス気味であることから,日最低気温にバイアス補正を施すと,将来気候では0℃以下の頻度は著しく小さくなるものと推測される.将来気候は6種類のSSTを境界条件としているが,いずれのSSTであっても低温イベント頻度の減少は共通しており,SST間の違いは著しく小さい.

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