日本地理学会発表要旨集
2020年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P137
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発表要旨
菅平高原アカマツ林下の若木分布からみた植生更新
*柿崎 健士
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キーワード: 微地形, 等高線図, 若木, 遷移
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抄録

背景

森林内の微地形は土壌および水分環境に変化を与え,林地内植生の発芽から生育にまで影響することから,林分の植生遷移を理解するうえで非常に重要である。強風や枯損などで発生した倒木は森林地表に横たわり、腐朽する。森林の傾斜に沿って土砂が移動すると、次第に倒木の幹や根(マウンド)、倒伏によって根がえぐり取られた穴(ピット)が埋められる。こうした要因によって土壌の分布にムラが生じ、地表面に大小の凹凸が形成される。このような微地形は林床の水分環境を制限するだけでなく、微細な斜面方位の違いを生み、樹冠下の日照を制限する要因にもなり得る。若木は成木以上に環境要因の影響を受けやすく、林床に種子として存在する段階から、実生、稚樹として成長する過程で、生育に不適な場所に存在する個体ほど淘汰される可能性は高くなると考えられる。微地形と若木の出現頻度についての研究は、近年に至り,漸く世界各地の森林で取り組まれるようになった。しかし、凹凸地以外の斜面方位や斜面勾配の微細な変化が及ぼす影響について、更なる調査・検討の余地がある。詳細な微地形調査と若木の分布から植生種ごとのニッチ戦略を明らかにすることを本研究の目的とする。

手法

調査は、長野県上田市菅平高原の筑波大学山岳科学センター内のアカマツ二次林を対象とした。林地内に20m×20mの方形区を2か所設けて,樹高が1.3m以上かつ胸高直径5 cm未満の樹木を若木として、樹種、高さ、位置情報を記録した。また、調査区内の成木の樹種、胸高直径、位置情報は筑波大学の定点観測データを用いた。また、方形区内では傾斜変換点に着目し、基準点からの方角・高低差を記録し、等高線図を作成した。この図に、成木の樹高が5~20mに達するとされる亜高木種および高木種の若木と成木の位置情報を投影し、同一図上にマッピングした 。この等高線図を元に、斜面上方から下方に若木の分布に沿ったトランセクトに沿って、傾斜横断面図を作成した。斜面方位の異なる複数の傾斜横断面図を元に、地表の凹凸と若木の密度と種多様性との関連性を考察した。

結果及び考察

調査地の平均斜度は4.3~5°の範囲であった。若木の多くがなだらかな傾斜に多く分布した。比較的,表層土壌が厚く堆積し、水分含量も高かったことが発芽や生育に十分な環境であったためであると考えられた。最も多い若木であるミズナラは、その傾向が強く見られた。また、傾斜横断線10m当たりの若木の本数は、南側から西側の斜面が2.81本で、1.94本であった北側から西側にかけての斜面と比較して多かった。また、この線上でのべ8種が確認され、このうちオオヤマザクラ、コシアブラ、ヒトツバカエデ、ミズナラの4種は双方で確認された。その他に、南寄り斜面にはイタヤカエデ、ミヤマザクラ、リョウブが、北より斜面にはハリエンジュが分布した。南寄り斜面では照度が高いために種多様性も高くなったことが推測された。このように、地表面の凹凸に起因する斜度、斜面方位が若木のニッチ戦略における制限因子となり、分布に影響することが示唆された。

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