日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 417
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発表要旨
三国山脈平標山の雪食裸地における夏季の侵食プロセス
*今村 友則
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抄録

1. はじめに 多雪山地の自然斜面には,積雪グライドや雪崩などの雪食作用で植生が剥ぎ取られた裸地が存在する。本稿では,これらの裸地を雪食裸地と呼ぶ。雪食裸地は,多雪山地の景観を特徴づけるだけでなく,斜面侵食の影響評価を行う上でも重要である。雪食裸地の侵食プロセスについては,土砂災害防止や森林保全を目的に研究が行われてきた。侵食量を定量化する方法として,雪崩堆積物や流出水に含まれる土砂量を測定するのが一般的であるが,侵食量の直接的な算出は困難であった。本研究では,三国山脈平標山の雪食裸地について,SfMを用いて作成したDSMの標高変化値を調査し,雪食裸地に働く夏季の侵食プロセスを考察する。 2. 調査地域と研究方法 調査地域は,上越県境に位置する三国山脈平標山 (1983.3 m) の南西斜面である。対象とした雪食裸地は,地表面の粒度組成や傾斜が異なる4つの裸地 (A1, A2, B1, B2) であり,2016年の夏季に2~4回の調査を行った。 調査には,多数のステレオペア写真から被写体の3次元構造を復元するSfM (Structure from Motion) という方法を用いた。自撮り棒を用いて裸地を多方向から撮影し,高解像度DSM (Digital Surface Model) を作成した。この方法での,実際の地形とDSMの標高誤差は1 cm未満である。異なる撮影日から得たDSM同士の差分をとり,裸地の標高変化値とした。解析結果を,裸地に設置した定点カメラデータや,付近の気象データ等と比較し,雪食裸地の夏季における侵食量と,その要因について考察した。 3. 裸地A1の標高変化 裸地A1 (7月, 8月, 9月, 10月に撮影) は,全体が茶褐色の風化土層に覆われ,3~10 cmほどの亜角礫が散在する。裸地上部の傾斜は20 °以上,下部は10 °未満で,明瞭な傾斜変化がある。差分解析の結果,7~8月にかけて,裸地上部で2~3 cmの侵食,下部で2.5~3.5 cmの堆積が生じていた。侵食域と堆積域は,傾 斜20°の線で区分される。一方,8~9月,9~10月の差分値は1 cm未満であった。山麓の新潟県湯沢町 (340 m) では,7月28日に日最大1時間降水量42.5 mmが記録されていた。定点カメラには,7月28日前後で,礫に被さっていた土壌が削り取られる様子が確認された。また,Google Earthによる2010年と2015年の空中写真を比較すると,裸地面積が2倍以上に拡大していた。 4. 裸地A2, B1, B2の標高変化  裸地A2 (6月, 10月) は,風化土層の上を3~15 cmの亜角礫が覆い,傾斜25 °以上の直線型斜面を呈す。差分解析の結果,1 cm以上の侵食・堆積は見られず,礫移動による3~10 cmの断片的な標高変化が多数確認された。また,Google Earthの2010年と2015年の空中写真を比較すると,裸地面積が縮小していた。 B1 (7月, 8月, 10月) ,B2 (6月,10月) は,全体が5~20 cmの亜角礫で密に覆われる。B1は傾斜30 °以上の直線型斜面である。B2は裸地上部の傾斜が25 °以上,下部が5 °未満であり,明瞭な遷緩線が見られる。差分解析の結果,B1, B2とも1 cm以上の侵食・堆積は見られず,礫移動による断片的な標高変化も数地点で確認されるに過ぎなかった。 5. 考察  以上の結果より,雪食裸地は夏季において,主に短時間豪雨による雨水ウォッシュで侵食されるが,その量は,地表面の粒度組成と傾斜に規定されると考えられる。裸地A1のように,雨水で削られやすい風化土層に覆われている場合,急斜面での土壌侵食と緩斜面での土砂堆積が行われ,裸地面積は拡大傾向にある。一方,裸地B1, B2のように,地表面が礫で密に覆われる場合,雨水で削られにくいため,わずかに生じる礫移動以外では,ほとんど地形変化が起きない。裸地A2では,風化土層に覆われているものの,雨水ウォッシュによる侵食は見られず,裸地面積は縮小傾向である。この要因については,礫の被覆割合や,裸地発生後の経過時間が関係すると考えられるが,現時点では不明である。

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