日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1017
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石垣島轟川流域における懸濁性土壌と窒素・リンの流出量推定
*飯泉 佳子寺園 淳子ジェンソン イメリダ下田 徹
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抄録

1. はじめに
亜熱帯・熱帯地域では,一般に降雨強度や雨滴の粒径が大きく、雨滴の衝撃エネルギーが比較的大きい。赤土など受食性の高い熱帯性土壌が分布するところでは、スコールや台風などにより表土が流出し、沿岸海域の汚染と生態系の劣化を引き起こしている。また同時に、農地からは肥沃な土壌や栄養塩が流亡するため、農業生産にとっては大きな損失となる。本研究の目的は、沖縄県石垣島の轟川流域を対象に河川を経由した懸濁物質と窒素とリンの流出量を推定することである。
2. 調査地域・方法
轟川の流域面積は約10.9km2で、流域の土地利用はサトウキビ畑(36.0%)、牧草地(30.1%)、山林(10.7%)、水田(4.6%)、その他(18.5%:パイナップル畑(3.6%)を含む)で構成され、居住人口は極めて少ない。河川の流出する海域は、2007年より西表石垣国立公園に指定されている。河川水の定点観測地点を6か所設定し、2006年8月から2008年6月までの期間、各地点において月1~2回の頻度で平水時の河川水質と流量の調査を実施した。また、そのうちの2地点で流速と濁度,水位の連続観測を行ったほか、洪水時の流量と水質を1時間ごとに測定した。水質調査項目は、pH、EC、水温、懸濁物質(SS)、全窒素(TN)、全リン(TP)、硝酸イオン(NO3-)、リン酸イオン(PO43-)である。気象データと流域の土地利用分布、河川流量(一部)は沖縄県のデータ(沖縄県農林水産部営農支援課, 2008)を使用した。
3. 結果・考察
流域下端に近い轟橋地点における平水時の懸濁物質、全窒素、全リンの平均濃度はそれぞれ3.33、 7.93、0.04 mg/Lで、懸濁物質の濃度は降雨による河川流量の増加に伴って上昇する傾向があった。2007年の降水量は2,404mmで、河川から流出した水の比流量は2,014mmと推定された。懸濁物質、窒素、リンのそれぞれについてL-Q(流出量-流量)曲線を作成し、2007年に河川から流域外へ流出した量を算出した結果、それぞれ8.7×103、47.9 、5.7 kg/ha/year程度と見積もられた。懸濁物質を全て土壌粒子とすれば、その量を流域の畑地面積で割り、流域表土の仮比重を1.3として土壌侵食深に換算すると0.7mmと計算できる。この値は、坂西ら(2007)が2000年7月~2001年6月の期間について、轟川と隣接する宮良川流域を対象に算出した値0.2mmと比較して3.5倍大きかった。また、轟川流域は宮良川流域と比較して、流域の単位面積あたりの懸濁物質の流出量は10倍以上、全窒素と全リンの流出量はそれぞれ2倍近く大きい可能性が示唆された。轟川流域では、農地における土壌流出抑制対策が進み河川水質の改善が報告されているが、さらなる取り組みにより水質の改善が期待できるものと考えられる。

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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