日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S603
会議情報

近年における熱帯モンスーンアジア地域の気候変動と水災害への影響
*森島 済
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録


1. はじめに
 水災害による影響の地域的評価とそれに対する適応戦略が、アジア地域においける人口増加と地球規模の気候変化に伴いより重要な課題となってきている.アジアの熱帯モンスーン地域は,特に明瞭な雨季,乾季を持ち,また,熱帯低気圧や台風の影響を受けるため,水災害は洪水や旱魃として現れることが多い。
世界に異常な気候状況をもたらすエルニーニョ/南方振動(ENSO)イベントは、これらの水災害と強く結びついた現象である.本発表では、最近の気候変化と熱帯モンスーンアジアの水災害との関係を考察し,特に農業生産への影響について検討する.

2. 熱帯モンスーンアジアにおいる近年の気候変動の特徴
 IPCCレポート(2007)によれば,熱帯モンスーンアジアにおける最近の気候変動の特徴は以下のとおりである.
a) 激しい雨、洪水と旱魃
 降水量と降水強度は,地域によって異なる傾向を示している.インドネシア南部では降水量の減少傾向が認められるのに対し,北部では増加傾向にある.一方,インドの北西部地域はここ数十年の間,ますます極端な降水量を経験するようになっているが,東部沿岸地域は降水日数の減少に見舞われている.バングラデシュでは,継続的な降水量増加が洪水の頻発に結びついている。また,フィリピンでは年降水量と降水日が増加傾向を示し,ヴェトナムでは,極端な降水の発生増加が洪水の原因となっている.
 これら南アジアや東南アジアにおいては,エルニーニョの発生に対応して,旱魃が起こっている.
b)サイクロンと台風
 西部熱帯太平洋の熱帯低気圧の発生数及び強さは、最近数十年の間で増加してきており,フィリピンでは、1990から2003年まで影響を与える熱帯低気圧の数が増加した。ベンガル湾とアラビア海では、1970年以降発生数に減少の傾向が認められるものの、強いものとなっている。2008年のミャンマーにおける熱帯性低気圧による洪水は、我々の記憶に新しい。
3. 気候変化に関する米生産の脆弱性:フィリピンを事例として
 フィリピンはENSOの影響を強く受ける国であり、特に1997年から始まったエルニーニョによる干魃と翌年急速に発達したラニーニャに伴う洪水は,米生産量を大きく減少させた(図1).

著者関連情報
© 2009 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top