日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 715
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広島県竹原市小吹集落における耕作放棄の竹林拡大への影響
*鈴木 重雄中越 信和
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抄録


はじめに
 竹林の広葉樹二次林への急速な拡大は北日本を除く全国各地の里山で生じている.さらに,中山間地域では過疎化や高齢化の進行により放棄耕作地が増加しており,タケが放棄耕作地に侵入した場合には,競合する樹木が存在しないことから急速な拡大がみられるといえる.そこで本研究では,広島県竹原市小吹集落において,竹林の分布拡大と植生・土地利用の関係を明らかにすると同時に,樹園地,畑の植生・土地利用変化を明らかにすることにより,これらに及ぼす耕作放棄の影響を検討した.

調査地域と方法
 広島県南部に位置する竹原市は,最盛期の1982年には年間98 tものたけのこを生産していたものの,2005年には年間6.2 tとなり,竹関連産業の衰退がうかがえる.しかし調査をおこなった市東部の小吹集落では現在でも5戸の林家がたけのこの出荷を継続している.一方で,農業集落カードによると,1970年から2000年の間でこの集落の農業従事者の高齢化と過疎化が急速に進行していた.また,経営耕地面積も1995年まで減少をしており,この期間に耕作地の放棄が進行したとみられる.なお本研究は,小吹集落の内浜川と田ノ浦川の上流部186 haを対象とした.
 植生・土地利用図は,同一の作成方法で,できるだけ長期間の変化を把握することを考え,デジタルオルソフォトを用いて作成した.まず,1962年,1986年,2000年に国土地理院により撮影された空中写真をスキャナでパソコンに取り込み,ESRI社製Erdus Imagine ver. 8.5を用いてオルソ補正をおこなった.この際DEMは,国土地理院発行の数値地図50 mメッシュ(標高)を用いた.そして,このオルソ画像を元に,GIS(TNT mips ver.7.1)上で,ベクタ型の植生・土地利用図を作成し,時代間の重ね合せにより竹林面積と植生・土地利用の変化を明らかにした.

結果および考察
 調査範囲内で1962年には9.6 haだった竹林が,1986年には19.8 ha,2000年には24.8 haと2.6倍の面積に拡大していた.
 2000年に竹林であった場所の1962年の植生・土地利用毎の面積は,おおむね1962年の面積と関係していたが,畑および樹園地は,竹林化した割合が他の植生・土地利用タイプよりも高かった.1962年の樹園地の41%,畑の25%が2000年には竹林になっており,耕作地の竹林化が深刻であった.1962年に樹園地と畑であった場所の変化パターンは,どちらも,1986年に竹林に換わり,2000年も竹林であるものの面積が最も大きく,それぞれ21%,13%であった.林家からの聞き取り等によると1970年代まではタケの植栽や意図的な拡大もおこなわれており,この影響もあったと考えられる.そして,1986年に竹林となったもののそれぞれ94%,80%が2000年も竹林であり,一度竹林が成立した場所が,ほかの植生・土地利用に変わることは稀であった.一方で,1986年に竹林以外であった場所のそれぞれ28%,16%が2000年には竹林となっており,この期間の竹林化率の平均である5%を大きく上回っており,耕作放棄後,竹林以外の植生・土地利用(広葉樹二次林やアカマツ林)に変化した後に竹林化した部分も多かった.これらの場所は耕作放棄後に別の植生に変わったものの,耕作地であった利用履歴がタケの侵入の容易さに影響を与えていたことが推察される. このようなことから,近年の急速な竹林の拡大には,過去に生じた畑,樹園地の放棄の影響も無視できないことが明らかとなった.

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