日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 705
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マラウィ北部における森林利用と植生変化
*藤田 知弘
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抄録


はじめに
 マラウィでは薪炭材や非木材林産物などの多くを森林から得ており,地域住民にとり森林は重要な存在となっている。一方,マラウィでは他のアフリカ諸国同様,人口増加とともに森林減少が懸念されており早急な対応が求められている。これまで有用樹のドメスティケーションなどに関する研究が行われてきたが,地域住民による森林利用についてはあまり研究がされていない。本発表ではマラウィ北部における地域住民の森林利用とそれに対する森林植生の変化を明らかにする。
調査地及び調査方法
 調査地はマラウィ北部,N村(10°57′S,34°5′E)である。年間降水量は600mm程度で4月から11月が乾季、12月から3月が雨季にあたる。毎木調査(10m×10m)は36ヶ所,萌芽本数及び林床稚樹数の調査(2m×2m)はそれぞれ18,12ヶ所ずつ行った。N村において樹木伐採の主な目的としてあげられたのは住居用レンガを作成するための燃材とタバコシェイド(注1)であった。これらに用いられる材積量(レンガ100個燃焼時の燃材,タバコシェイド一棟2m×9m)を末口二乗法から求めた。得られた材積量と世帯調査から得られた過去25年間の住居及びタバコシェイド建築の履歴を元に樹木伐採量を試算した。
結果と考察
 伐採量調査から立地条件の異なる森林では伐採量に違いがみられることがわかった。住居に近く緩傾斜地に立地する二次林1,2では伐採量が大きく,急傾斜に立地する二次林3では伐採は行われていなかった。伐採量の異なる森林ではそれぞれ樹種構成に違いがみられた。二次林1,2ではトウダイグサ科のUapaca kirkianaが優占していた。一方,二次林3ではマメ科ジャヤケツイバラ亜科のBrachystegia floribundaBrachystegia boehmiiといったミオンボ林代表樹種が優占していることがわかった。各森林ではいずれも家畜飼養に利用される草本の成長を促すために毎年乾季に火入れが行われる。2007年に火入れが行われた土地(以下,火入れ地)と火入れが行われなかった土地(以下,非火入れ地)で萌芽本数を比較した。その結果,火入れ地でUapaca kirkianaの高い萌芽枝数をみることができた。Uapaca kirkianaは火入れに対し萌芽更新を行うことで個体を維持し,二次林1,2では優占種となっていることが示唆された。一方,二次林3では火入れによって優占種であるBrachystegia floribundaBrachystegia boehmiiの更新が阻害されていることが示唆された。毎木調査の結果,二次林3ではBrachystegia floribundaBrachystegia boehmiiの小径木が非常に少なかった。林床の稚樹数を火入れ地と非火入れ地で比較したところ,非火入れ地ではBrachystegia floribundaBrachystegia boehmiiを含めた多くの稚樹をみることができたが,火入れ地では生存する稚樹は非常に少なかった。これにより,現在,二次林3はマメ科ジャヤケツイバラ亜科が優占するミオンボ林に近い様相をみせているが,今後,それは変化していくことが考えられる。
(本研究は、平成17-20年度文部科学省科学研究費補助金・基盤研究A(研究代表者:水野一晴)「南部アフリカにおける「自然環境-人間活動」の歴史的変遷と現問題の解明」の一環として行われている。)
(注1) タバコは収穫後、葉を乾燥させるために風通しの良い日陰を必要とする。タバコシェイドはこれに用いられる。

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