日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 415
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富山県における製薬企業の物流共同化の展開
*中村 努
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キーワード: 共同化, 製薬企業, 物流, 富山県
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抄録

I.はじめに
 近年、医薬品流通において、製薬企業の工場間で同一の物流拠点を使用することで、物流コストを削減しようとする、いわゆる物流共同化の動きがみられる。製薬企業は新薬開発に投資を集中させる一方、安価な医薬品製造を外部のメーカーに委託する傾向にある。しかも、その傾向は複数の企業に及ぶため、複数の製薬企業から物流事業を受託する企業が部品や原料などの物流共同化を通じて、より効率的な配送システムを構築しつつある。一方で、医薬品は生命に密接に関連した商品であるがゆえに、品質管理や時間の制約がきわめて厳しい。そのため、安全性に配慮しつつ、緊急時の配送にも迅速に対応しうる体制もまた必要とされる。
 一方、物流共同化にあたって、製薬企業間には複雑な利害が存在する。しかし、物流共同化にあたって、県や薬業連合会といった公的機関や、物流業務を受託する企業が製薬企業間の利害を調整している。また、後者は自社では物流業務を行わず、他の流通業者への委託を前提として配送システムを企画・運営している。そこで、本発表では、物流共同化を実現した富山県の事例をもとに、関連する主体の利害に注目しながら、物流共同化プロセスと地域への影響を考察する。

II.富山県における医薬品生産・流通の特徴
 富山県では江戸時代以降、先に医薬品を常備薬として各家庭に届け、後に使用分の代金を徴収するという、いわゆる「置き薬」という独特の流通システムが浸透している。こうした歴史的経緯もあって、富山県内には、製薬企業が多く集積している。富山県に立地する製薬企業約90社の中で、富山県薬業連合会に加盟している製薬企業は74社であるが、うち約60社は小規模な配置用医薬品メーカーである。
 さらに、2005年4月の薬事法改正をきっかけとして、医薬品の受託製造が全面的に可能となった。富山県内の製薬企業は、配置用医薬品の売り上げを減少させており、受託製造を新たな経営の柱にするため、積極的な設備投資に取り組んでいる。その結果、富山県における医薬品の生産額は近年、急速な伸びを示している。厚生労働省の薬事工業生産動態年報によると、2006年の富山県の医薬品生産金額は前年比 67.5%増の約4,417億円であるが、他の都道府県と比較して、生産額に占める委託製造の割合が大きい(図)。都道府県別にみると、2005年の8位から4位に上昇した。

III.製薬企業の物流共同化
 製薬企業の物流共同化事業は、富山県内の各製薬企業が個別に行っている医薬品の出荷および帰り荷の原料調達にかかわる配送業務を共同で行うものである。この事業は、CO2の排出削減を目的として、国土交通省と経済産業省が連携して設置した「グリーン物流パートナーシップ会議」の普及型事業に選定され、配車等システム設計費やデータベースサーバの増設などの補助を受けた。
 共同化に際して、1.運輸業者との共同配送システムの構築、2.運送業務手順書の整備、3.共同輸送料金体系の作成、4.請求業務の標準化、5.配送管理システムの導入が図られた。1台のトラックが複数の製薬企業の拠点を回ることで、輸送の効率化とともに積載率の向上によるトラック数の減少が実現した。
 当該事業では、医薬品卸が設立した物流共同化の企画・管理専門会社が主幹事となって、製薬企業13社の物流共同化を主導している。同社は、自社では物流資産を持たず、総配送費用を最小化するための最適な配送計画を立案し、運輸業者や倉庫業者に物流業務を委託している。同社は富山に営業所を設け、定期的に共同物流に参画するメーカーを訪問することで、物流共同化事業の拡大を図っている。
 一方、公的機関による支援もまた、物流共同化の推進に役立っている。富山県は、医薬品製造にかかわる産業育成に意欲的であり、物流共同化事業に関して、薬事法上の助言を行っているという。さらに、富山県薬業連合会は、共同物流を普及させるため、啓蒙活動によって、製薬企業の参加を促進している。
 詳しい共同化のプロセスや配送システムの再編成の状況については当日紹介する。

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