日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: P711
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南アルプス南部、大聖寺平および丸山周辺における気温・地温状況
*小山 拓志天井澤 暁裕増沢 武弘
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抄録

1,はじめに これまで南アルプスでの気象観測は,赤石岳や間ノ岳周辺において,地温の通年観測がおこなわれた程度で,それほど多くはない(たとえば,松岡1991a;Matsuoka,1994,1996,1998).本研究では,周氷河性平滑斜面が広範囲に分布しているにも関わらず,気象観測がおこなわれていない南アルプス南部,大聖寺平および丸山周辺において観測点を設け,気温・地温の観測をおこなった. 2,観測方法と観測点 気温観測は,地上約150 cmのフード(塩化ビニル製)内に設置したサーミスター温度センサーと,データロガー(温度ロガー3633:日置電機製)を用いて60分間隔でおこなった.その結果,1日24回の測定値に基づき日平均気温,日最高気温,日最低気温を算出した(表1,2).地温観測は,気温観測に用いた物と同様のセンサーとデータロガーを使用し,地表の表面角礫層(2 cm深)から100cm深までの数地点に埋設した(観測は60分間隔). 大聖寺平の観測点標高は2810 mで,気温観測の期間は2006年9月7日~2007年9月22日である.丸山の観測点標高は3020 mで,気温および地温(2,5,10,20,50,100 cm深)を観測した(2006年の地温観測は,観測機材の不都合により,2,5,50 cm深のみ観測).気温の観測期間は,2006年9月7日~2007年8月28日,地温の観測期間は,2005年8月7日~2006年8月7日,2006年9月7日~2007年8月28日である. 3,観測結果と考察 大聖寺平および丸山における気温変化の状況(表1,2)  大聖寺平の観測点において,9月と10月の測定値に異常値が見られたため,両月の月平均気温は丸山の観測点で得られた測定値から推定し,その値を基に年平均気温を求めた. y = 1.0065x + 1.5157 その結果,1年間の平均気温は大聖寺平で0.3℃,丸山で-1.2℃であった.両地点ともに最暖月は8月(大聖寺平:12.5℃,丸山:11.3℃),最寒月は1月(大聖寺平:-11.7℃,丸山:-12.2℃)であり,年較差はそれぞれ24.2℃と23.5℃であった. なお,大聖寺平と丸山の月平均気温の相関係数(R2)は0.99で あり,きわめて高い相関が認められる(図1). 凍結・融解日は,春季(4月~6月)と秋季(9月~11月)に顕著な出現日数が記録された.しかし,土壌の融解が進行する4月~6月を見ると,丸山で35日出現しているのに対し,大聖寺平では23日に留まり,丸山で凍結・融解日が9日出現した6月には,大聖寺平では凍結・融解日が出現していない. 丸山における地温変化の状況 2,5,10 cm深においては日平均地温に顕著な変動が見られるが,50 cm深ではその変動が小さくなる.100 cm深ではさらに地温変動が小さくなり,融解期においては0℃あるいは0℃にきわめて近い状態のままで推移する期間がある. 丸山の観測点では,日周期での凍結・融解は,5月上旬と10月中旬を中心に生じる.しかし顕著な凍結・融解が認められるのは2 cm~10 cm深においてであり,50 cm以深ではその頻度は大きく低下する.50 cm以深では大半の地温日変化幅が0℃を挟んで±0.3℃程度であり,日較差がほとんど生じていない.また,2 cm~10 cm深での凍結・融解期間が一ヶ月半から二ヶ月前後に及ぶのに対して,50 cm以深では凍結開始時期あるいは融解開始時期の数日程度である.したがって,日周期の凍結・融解は土壌のごく表層付近で卓越するだけであり,50 cm以深ではむしろ年周期で凍結・融解が生じていると考えられる.

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