日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 716
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温帯低気圧の異常発達に伴う航空機への影響
*大和田 道雄鳥居 つかさ
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抄録


I 研究目的
 近年,温帯低気圧の異常発達による竜巻や強風被害が相次いでいる。特に一昨年開港した常滑沖の中部国際空港(セントレア)では,強い横風による欠航が相次いだ。2005年および2006年の12月,2007年の1月等がその例である。これは,この地域で吹く局地風「鈴鹿おろし」の影響によるものである。鈴鹿おろしの存在は,既に吉野(1978),Owada(1990)によって明らかにされているが,今後の吹走頻度によっては運航への影響は免れないと考えられる。そこで欠航時における気圧配置分類を行い,その原因の事例解析を行った。

II 欠航時の気圧配置
 まず,2005年12月5日は日本海と太平洋岸に発達した低気圧があって,伊勢湾岸地域に日本海側から雪雲が流れ込み,降雪を伴った強い西よりの風が吹き荒れた。さらに同月22日には日本海低気圧が東の海上に抜けて発達(978hPa)し(図1),国内線・国際線を合わせて224便が欠航した。2006年の12月29日には78便が欠航したが,その時の強い西風は南岸低気圧の発達(968hPa)によるものである。また,2007年1月7日は,日本海低気圧と南岸低気圧がドッキングしてオホーツク海付近で発達(964hPa)し,強い西風によって153便が欠航した。

III 欠航時の風
 222便が欠航した2005年12月22日におけるセントレアの風は(図2),日中に風速が弱まったものの,ほとんどの時間帯で最大風速が13m/sを上回り,ピークは18m/sに達している。さらに176便が欠航した2007年1月7日は,最大風速20m/sをピークに13m/s以上の強風が日中の午後まで持続した。これらの強風時の共通点は,西風が終始吹き続けた点にある。セントレアの滑走路は,走行が北北西から南南東であることから,強い西風は航空機の離発着に障害となる。  強い西風は,西高東低の冬型気圧配置時において吹く鈴鹿おろしである。鈴鹿おろしは,鈴鹿山脈(御在所岳1,210m)から伊勢平野に吹き下りる西よりの強風で,低気圧の中心がオホーツク海付近に位置している場合が多い(大和田,1994)。したがって,オホーツク海付近で低気圧が異常に発達したために気圧傾度が増し,強い西風が吹走したためである。

IV 上空の気圧場
 2005年12月22~23日にかけて発達した低気圧は,中心気圧が952hPaにまで発達した。図4は,過去10年間の12月における平均500hPa面高度場と12月22日との偏差で表したものである。「正」偏差域は,シベリア大陸にあって,南シナ海付近にまで張り出し,日本列島を中心として「負」の偏差域が同心円状に分布する。これは,寒帯前線ジェット気流の蛇行が激しく,日本列島上に寒気が南下しやすい状況あることがわかる。また,日本列島の南の海上にあたる西太平洋は,北緯20度付近までが「正」偏差域を示し,亜熱帯高圧帯領域面積の拡大が平年に比較して著しいことがわかる。したがって,高緯度側の寒気と低緯度側の暖気の接触によって温帯低気圧がオホーツク海付近で異常発達したものと考える。

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