日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 631
会議情報

2004年インド洋大津波とマングローブ林域の破壊に関する総括的な報告
*宮城 豊彦柳沢 英明馬場 繁幸今村 文彦チャルチャイ タナブッドムザイリン アッファー
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録


はじめに
 2004年12月26日にスマトラ島沖で発生した巨大地震における津波災害は極めて激烈なものであった。この中で、沿岸の森林生態系であるマングローブ林とその土地は、どのように破壊され、あるいは如何なる防災機能を発揮したのだろうか。最大波高が10mを超えるような巨大津波の経験を踏まえて、今や、マングローブ林とその土地が有する防災機能を適切に理解し、沿岸域の防災林整備に資する指針を作り上げることが必要とされている。
 マングローブ生態学・津波工学・地形学などの専門からなる演者らは、地震直後から、文科省振興調整費、科研費、国土地理協会、林業技術協会などの助成を得てタイとスマトラの各地でマングローブ林がどのように破壊された森と土地に関する詳細なデータを作成し、津波伝播に関するシミュレーションを実施し、現地での適合性を評価し、これらをもとにマングローブ構成種の津波破壊に対する抵抗力を評価してきた。昨年末までで、各地の実態調査と一連の評価もほぼ終了する段階までこぎつけ、今後は破壊された生態系の修復を考察する段階に移る。そこで、これまでに調査し、解析して得た知識の概要を報告し、今後展開される防災機能としてのマングローブ林の有効活用や植林活動の展開に少しでも役立てることを期待したい。

津波に対するマングローブ林の応答タイプ
:熱帯の広域で津波が襲来したために、極めて多様な応答の例を現場で検証する機会に恵まれた。マングローブ林と言えども、限定的な立地位置(潮間帯の上半部)、多様な植生・生活形(樹種・森林規模・樹木サイズなど)、微地形と堆積物(砂質・泥質など)の相違があり、これらの条件と津波のエネルギーとの関係が整理されて理解されることが必要である。その際、マングローブ樹木の破壊は、強い破壊から順に抜根流亡、侵食流亡、曲げ折れ、せん断破壊、倒壊、傾動、枯死、生存と類型化できる。なお、侵食流亡・枯死は波力と樹木の力関係の次元とは異なる。また、抜根流亡とせん断破壊は波力の評価が困難である。

地形変化に伴うマングローブ林の破壊
:浜堤など砂質の微地形が津波で容易に侵食されることで、樹木が大量に流亡する事態が波高3m以上の箇所で広く発生した。マングローブの根は発達深度がごく浅く、地盤の侵食に極めて弱い。一方で粘土質の干潟などは侵食に強く、波高が5mを越えても堆積物の侵食は軽微であった。バンダアチェの一部では波高が10mを超え、泥質・泥炭質の地盤が大規模に侵食された。津波に伴った堆積が行われた場所では流亡が発生しなかった。
 河口部や澪など微地形的な低所は、津波が集中し、周囲に比べて強い破壊が発生したが、一方で比高1~2m程度の浜堤は越流する津波の波力を減衰することには余り寄与しなかったようである。

マングローブは、津波でどう破壊されたか
:湾口で波高3-5m程度の遡上が見られたナムケム、河口部を中心に6m内外の波高に達したカオラック、河口や沿岸低地で波高10m+~5m程度の津波を蒙ったバンダアチェを対象に、利用しうる最良のデータを用い、現地計測を重ねて津波伝播のシミュレーションを行い、同時に破壊状況の計測を行った。この結果、特にリゾフォラは、津波エネルギーと樹木破壊の関係に極めて明瞭な関係式を導くことが出来、エネルギー分布と破壊状況の空間的な適合性の相応の相関が見出された。

もし、マングローブ林が
:直径が30cm程度の(樹齢数十年?)樹木からなる森がエビ養殖池が開発される前の状態で、バンダアチェに存在していたら、7万人に及んだ死者行方不明者の数がこれ程に達することは無かったのではないかと思われる。現在、その評価のための最終的な作業を実施している。

著者関連情報
© 2007 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top