日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T12-P-13
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T12.地球史
北西太平洋海域における石灰質ナノ化石に基づく表層海水温の推定
*桑野 太輔亀尾 浩司
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抄録

石灰質ナノ化石は,海洋の最表層に生息する石灰質ナノプランクトンの殻が化石化したものであり,海洋環境の変化に応答してその群集組成を変化させることから,これまで過去の表層海洋環境の推定に利用されてきた(例えばKameo et al., 2020).特に,北西太平洋海域は,亜熱帯循環と亜寒帯循環の西岸境界流である黒潮や親潮により水温前線が形成される海域であり,表層海水温(SST)の南北偏差が大きい特徴がある (Locarnini et al., 2018).本研究では,Kuwano et al. (2022) で発表された北西太平洋海域における石灰質ナノ化石に基づく現生アナログ法を改良し,鹿島沖で採取されたMD01-2420コアから産出する石灰質ナノ化石群集に適用することで,最終氷期以降における鹿島沖のSSTの復元を行った.本研究では,Tanaka (1991) によって得られた表層堆積物から産出する石灰質ナノプランクトンのデータを現生群集のデータセットとして利用した.また,現在のSSTは,World Ocean Atlas 2018 (Locarnini et al., 2018) における0 mの年平均海水温を緯度経度ごとにリサンプリングしたデータを使用した.現生アナログ法は,類似度指標としてSquared Chord Distanceを使用し,類似度の高い5地点のSSTの加重平均を算出することによりSSTを推定した.本手法を用いて,本邦太平洋側に位置する273地点の表層堆積物のSSTを復元した結果に基づくと,復元されたSSTと観測されたSSTは概ね良好な相関(R=0.87)を示し,その推定誤差は概ね1 ℃程度であった.また,この手法を鹿島沖MD01-2420コアから産出する石灰質ナノ化石群集に適用すると,MIS 2では~17 ℃,MIS 1では~22 ℃のSSTを示し,Mg/Ca(Sagawa et al., 2006)やアルケノンに(Yamamoto et al., 2005)基づき復元されたSST変動と同様の傾向を示した.このことから,石灰質ナノ化石群集に基づく現生アナログ法は表層海水温の復元に有効であると考えられる.石灰質ナノ化石を用いたSSTの復元は化学分析を必要としないことから,将来的には船上などでSSTのデータを取得できることが期待される.【文献】Kameo et al., 2020, Progress in Earth and Planetary Science, 7:36. Kuwano et al., 2022, 日本地球惑星科学連合大会2022講演要旨,MIS18-17. Locarnini et al., 2018, World Ocean Atlas 2018, Volume 1: Temperature. Sagawa et al., 2006, Journal of Quaternary Science, 21, 63–73. Tanaka, 1991, Sci. Rep., Tohoku Univ., 2nd ser. (Geol.), 61, 127–198. Yamamoto et al., 2005, Geophysical Research Letter, 32, 1–4.

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