日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T11-P-11
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T11.南極研究の最前線
(エントリー)東南極トッテン氷河沖の表層海底堆積物を用いたBe同位体分析に基づく近過去海洋環境復元
*山﨑 友莉菅沼 悠介板木 拓也天野 敦子山口 耕生
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抄録

近年,衛星観測から南極氷床は急速な融解傾向を示すことが明らかになってきた。このような傾向は比較的温暖な周極深層水(CDW)流入による棚氷の底面融解が原因とされるが、CDWの役割や中・長期的変化傾向には未だ不明点が多く残されている。一方,近年南極沿岸堆積物中の10BeはCDWの流入、9Beは南極大陸からの砕屑物供給に対応して変化することが明らかになりつつあり,海洋環境と氷床変動のプロキシとして注目を集めている(Valletta et al., 2018 ; Iizuka et al., 2023)。そこで本研究は、東南極に位置するトッテン氷河沖の表層海底堆積物のBe同位体分析から、過去130〜170年間におけるCDW流入および南極氷床変動の復元を試みた。用いた表層海底堆積物試料は、第61次南極地域観測隊によってトッテン氷河沖の2地点(St.14BとSt.26)から採取されたもので、St.14Bはトッテン氷河のカービングフロント近傍、St.26はダルトンポリニヤに位置する。本研究では、前者22cm、後者20cmの試料に対して210Pb年代測定、粒度分析、およびBe同位体測定を行った。210Pb年代測定からSt.14BとSt.26の表層堆積物試料はそれぞれ1890年と1850年以降の記録を保持していることが示された。両地点の粒度は、概ね深度方向に大きな変化はなく、比較的安定した堆積環境であったと考えられる。10Be濃度は両地点で比較的一定であり、9Be濃度はSt.26では一定であったものの、St.14Bは現在に向かって増加傾向を示した。これらのデータから、トッテン氷河カービングフロントへのCDWの流入は、過去130〜170年間安定していたことと考えられる。一方、南極氷床起源の砕屑物供給は増加していることから、南極氷床・棚氷は、約130年前以降融解傾向であることが示唆された。これらのデータは、近年の温暖化傾向と南極氷床の融解傾向を理解する上で重要なデータを提供するものであるが,データの空間分布や時間分解能は十分ではない。今後、過去のCDWと南極氷床変動ダイナミクスを詳しく明らかにするため、さらなる試料の分析が必要である。 参考文献 Iizuka, M., Seki, O., Wilson, D., Suganuma, Y., Horikawa, K., van de Flierdt, T., Ikehara, M., Itaki, T., Irino, T., Yamamoto, M., Hirabayashi, M., Matsuzaki, H., Sugisaki, S.(2023), Multiple episodes of ice loss from the Wilkes Subglacial Basin during the Last Interglacial, Nature communications,14(1) Valletta, R., Willenbring, J.,Passchier, S.,Elmi, C., (2018) 10Be/9Be Ratios Reflect Antarctic Ice Sheet Freshwater Discharge During Pliocene Warming. Paleoceanography and Paleoclimatology, 33, 9, 934-944

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© 2023 日本地質学会
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