日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T11-P-2
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T11.南極研究の最前線
東南極ナピア岩体Mt. Cronusにおける新太古代〜古原生代にかけての地殻熱イベント
*加々島 慎一遠藤 美空谷 健一郎野原 里華子
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抄録

地球史を解く上で重要なテーマの一つに,太古代〜原生代の大陸地殻の形成と発達過程の解明がある. 東南極エンダビーランドのナピア岩体は,太古代の地殻熱イベントを記録しており (James and Black, 1981など),原太古代の年代値が報告されている:ca. 3840–3770 Ma (Mt. Sones,Harley and Black, 1997),3850 Ma (Gage Ridge,Kelly and Harley, 2005),>3700 Ma(Mt. JewellとBudd Peak,Król et al., 2020)など. しかし,これら「古い」は一般的ではなく,ナピア岩体の大部分では3300-2600 Maにかけて原岩が形成したと考えられている(Horie et al., 2012; Takehara et al., 2020). Król et al. (2020)は,アムンゼン湾東方Tula Mountainsの正片麻岩について,太古代のマグマ活動が単純な若い地殻の形成だけでなく,様々な地殻成分の再溶融とリサイクルによって多様性が生じていることを示している.本発表では, Mt. Cronusの珪長質岩の地球化学的特徴から推定される成因とジルコンU-Pb年代結果から,新太古代〜古原生代にかけての地殻熱イベントの解明を試みる. Mt. Cronusはナピア岩体の中心付近に位置し,超高温変成作用の領域の中にある.本研究は,JARE46において採取された珪長質岩,変ハンレイ岩,およびサフィリン含有グラニュライトを用いている.珪長質岩は中〜細粒で,石英,斜長石,直方輝石,メソパーサイト,少量の黒雲母,ザクロ石,ジルコン,アパタイト,モナザイト,不透明鉱物を含み,一部に極弱い片麻状構造をもつ.変ハンレイ岩は中〜細粒で,角閃石,斜長石,直方輝石,単斜輝石,不透明鉱物を含み,弱い片麻状構造をもつ.グラニュライトは,サフィリン,直方輝石,珪線石,ざくろ石,石英,金雲母を含む.サフィリンと石英の間に直方輝石+珪線石の共生が確認される. 珪長質岩は長石のソルバス温度計より約1,000℃の温度が見積もられ,グラニュライトの鉱物共生関係からは1,050℃以上の温度条件からの等圧減温反応を示す.珪長質岩のSiO2は77.2〜78.7 wt.%,主要・微量元素ともに均質な値を示し,太古代以降のTTGの性質をもつ.微量元素の判別図ではプレート内花崗岩の領域にあり,高いεSr値と低いεNd値をもち,大陸地殻物質起源を示唆する.Tula Mountainsの高Y-HREEタイプと似たREEパターンを示すが,正のEu異常を持ちHREEがより高い値を示す.斜長石を主体とし残渣にザクロ石を持たないような部分溶融過程や珪長質地殻の再溶融が示唆される.一方,変ハンレイ岩のSiO2は約49 wt.%で,E-MORBに近いREEパターンを示す. 珪長質岩のジルコンU-Pb年代は,oscillatory zoningコアから2780 Maの年代ピークが得られ,その他のコアおおよびリムからは2630 Ma,2490-2440 Maのピークが得られる.2780 Ma は変成温度が超高温までは達しないが, 900-1000 ℃ 程度の高度変成作用が起こった年代と解釈されており(Hokada et al., 2008),原岩または珪長質岩の形成はこの熱イベント時に地殻の部分溶融により生じたと考えられる.2630 Maは同様な年代値がナピア岩体の他の露岩からも得られており,大規模なテクトニックイベントがあったことが示唆される.2490-2440 Maの年代値は最も集中しており,主にCL像において明るく幅の広いリムや overgrowthしたリムにみられる. これは太古代末期に起こった超高温変成作用を被ったためと考えられる.<引用文献>James and Black(1981)Sp. Pub. Geol. Soc. Australia, 7, 71-83.Harley and Black(1997)Antarctic Sci., 9, 74-9.Kelly and Harley(2005)Contrib. Min. Pet., 149, 57-84.Król et al.(2020)Gondwana Res., 82, 151–170.Horie et al.(2012)Gondwana Res., v. 21, 829-837.Takehara et al., 2020 Minerals, 10, 943.Hokada et al.(2008)Geol. Soc. London Sp. Pub., 308, 253–282.

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© 2023 日本地質学会
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