日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T2-P-10
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T2.変成岩とテクトニクス
栃木県西部足尾山地に産する片麻岩に含有されるクリソベリルの産状報告と意義
*北野 一平
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抄録

クリソベリル(金緑石)はBeを含む代表的な鉱物で,アレキサンドライトの名の宝石としてもよく知られている.本邦では,日本三大ペグマタイト産地として知られる,福島県石川地方および岐阜県苗木地方において白亜紀のペグマタイトからクリソベリルの産出が報告されているのみであった(例えば河田,1961;大野ほか,2005).しかしながら,本研究では,栃木県西部足尾山地で最近見出された片麻岩(北野,2022)から,鏡下観察およびラマン分光分析結果に基づいてクリソベリルの産状を確認した.変成岩中に産出するクリソベリルとして本邦初の報告になると考えられる.片麻岩中のクリソベリルの産状と組織,主要化学組成の特徴を報告し,その意義について考察する. 栃木県西部足尾山地には,足尾帯のジュラ紀付加体が広く分布し後期白亜紀~前期古第三紀の花崗岩類に貫入されている.分析試料の片麻岩は数cm厚の珪質層と数mm厚の雲母質層からなり,主な鉱物組み合わせは黒雲母,白雲母,フィブロライト,紅柱石,カリ長石,石英で,少量のルチル,アパタイト,電気石,ジルコン,クリソベリルを伴う.クリソベリルは,主に細粒な黒雲母,白雲母,フィブロライト,粗粒な紅柱石からなる雲母質層にのみ産する.半自形~他形(融食形)で最大0.22 mmの粒径をしめし,双晶を成し面構造に沿って配列している.黒雲母,白雲母,石英,フィブロライト,ルチルと接し,中心部にアパタイト,フローレンス石((La,Ce,Nd)Al3(PO4)2(OH)6),ルチルを包有している.一部,クラックに細粒白雲母が充填されている.他形のクリソベリルはAl2O3 = 77.87­–80.30 wt%, TiO2 = 0.13­–2.54 wt%, Cr2O3 = 0.02­–0.11 wt%, FeO = 0.31­–0.46 wt%の化学組成をしめし,半自形のものはAl2O3 = 78.15–80.33 wt%, TiO2 = 0.30­–2.08 wt%, Cr2O3 = 0.04–0.12 wt%, FeO = 0.37–0.58 wt%の化学組成をもつ.これらのクリソベリルは,Merino et al. (2013)のFeO–Al2O3図およびTiO2–FeO–Cr2O3図でペグマタイト質~花崗岩質岩起源のものと類似した組成をしめすものの,後者の図において一部のクリソベリルの縁部の組成はペグマタイト質~花崗岩質岩起源の組成範囲から外れる. 一般に,変成岩中のクリソベリルはベリル(緑柱石)を消費して形成されるが(Franz et al., 2002),本試料中にベリルは確認されていない.本片麻岩中に含まれるクリソベリルは半自形で,中心部に希土類元素を含有するリン酸塩鉱物を包有し,ペグマタイト質~花崗岩質岩起源のクリソベリルに類似する組成を呈することから,Merino et al. (2013)で報告されているようなパーアルミナスで分化した花崗岩質岩を起源とする可能性が推察される.一方で,一部のクリソベリルは融食形を呈し,定向配列するフィブロライトなどと接し,比較的変成作用起源の組成領域に近い化学組成をしめす.以上の結果から,火成起源のクリソベリルが局所的に高温変成作用により再結晶化したことが推察される.本片麻岩の最高変成条件は約580–600 °C,>4.5 kbarと見積もられており,Beurlen et al. (2013)で報告されている珪線石+クリソベリル+石英を含む変ペグマタイトの変成条件(約600 °C, 3.5–5 kbar)と類似し,Franz and Morteani (1981)のクリソベリル+石英の安定領域内にあたる.北野(2022)の片麻岩の記載岩石学的特徴と組み合わせると,海底下で原岩の層状チャート形成時に,大陸側に存在したパーアルミナスで分化した花崗岩質岩からクリソベリルを含む泥質の砕屑物が供給された後,延性変形を伴う高温変成作用を被り,一部のクリソベリルは再結晶化した過程が考察される.しかしながら,この考察の具体化には更なる広域調査と年代解析などの分析が必要である. 引用文献 Beurlen et al. (2013) Journal of Geosciences, Franz and Morteani (1981) Neues Jahrbuch für Mineralogie – Abhandlungen, Franz and Morteani (2002) in Reviews in Mineralogy and Geochemistry, 河田(1961)5万分の1地質図幅説明書「付知」,北野ほか(2022)日本地質学会第129年学術大会要旨,Merino et al. (2013) Lithos, 大野ほか(2005)地質ニュース

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