日本地質学会学術大会講演要旨
Online ISSN : 2187-6665
Print ISSN : 1348-3935
ISSN-L : 1348-3935
第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T12-O-6
会議情報

T12.地球史
(エントリー)蝦夷層群羽幌川層の堆積岩中に含まれる花粉・胞子化石の色に記録された古生物学的・地質学的情報解読の試み
*早川 万穂中村 英人池田 雅志沢田 健高嶋 礼詩西 弘嗣
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

堆積岩中の有機物、特に有機質微化石の色は、堆積岩の熟成度により変化する。これを利用した熟成度指標として、有機質微化石の色の変化を目視によって評価する指標Thermal Alteration Index (TAI; [1]) や、有機質微化石の明度を定量的に評価する指標 Palynomorph Darkness Index (PDI; [2]) が開発され、応用されてきた。有機質微化石の色や明度は、熟成度のほか微化石の壁の厚みや組成、構造により変化することが知られており、熟成度指標として利用する際には、同系統かつ膜の厚みが同程度で装飾の少ない微化石を選んで分析を行い、試料間の比較に用いることとされる。すなわち、同一の堆積岩試料中に見られる微化石の色や明度の多様性には、有機質微化石の膜構造や組成、有機質微化石が被った続成変化の違いなどの多様な情報が反映されている可能性がある。そこで、本研究では、花粉・胞子化石の色から熱熟成度以外の古生物学的・地質学的情報を抽出することを目的に、熱熟成度が同等の堆積岩試料中の花粉・胞子化石の明度および色相を定量的に比較し、それらの関係から、色の変化の要因を考察した。Takashima et al. (2019)[3] で採取された北海道苫前地域古丹別川沿いに分布する上部白亜系蝦夷層群羽幌川層の Coniacian 期の泥岩から酸処理・アルカリ処理によって花粉・胞子化石を分離し、花粉・胞子化石を鑑定した。花粉・胞子化石の画像の取得と花粉・胞子壁の厚さの測定には、オリンパス生物顕微鏡CX-43、顕微鏡用カメラBig Eye KP10000および撮影ソフトRisingViewを用い、取得した花粉・胞子化石の画像のうち、花粉・胞子壁の折れ込みなどがない部分を選び、Digital Color Meter (Apple Inc.) により色情報(RGB値)を取得した。RGB値をもとに、有機質微化石の明度を示すPDIと、明度と独立した色情報として色相 (hue) を算出し、花粉・胞子粒子のそれぞれの値を比較した。PDIと色相の間にはよい相関が見られ (R2 = 0.8768, n = 31)、明度が高い (PDIが低い) 花粉・胞子化石ほど黄色に、明度が低い (PDIが高い) 花粉・胞子化石ほど赤色に近づく関係が示された。さらに、花粉と胞子の比較では、花粉化石は明るく黄色い領域(低PDI、高hue)に、胞子化石は暗く赤い領域(高PDI、低hue)に分布する傾向を示した。熱熟成度が同等の堆積岩中の花粉・胞子化石にPDIおよびhueの違いをもたらす要因として、1) 形態(花粉・胞子壁の厚さ)の違い、2) 続成過程の違い、3) 花粉・胞子壁を構成する成分の違いが考えられる。1) に関して、花粉・胞子壁の厚みが増すほど暗く赤くなる弱い傾向 (thickness vs PDI: R2 = 0.28, thickness vs hue, R2 =0.22) が認められるものの、花粉や胞子のPDIとhueの大幅な差異は厚みの違いのみで説明することはできない。2) に関して、風媒の花粉は飛散により堆積場近傍まで運搬され得る一方で、胞子は主に流水により運搬され、蝦夷層群の堆積場に到達するまでにより重度の初期続成作用を被った可能性があり、これが胞子化石のPDIが高く赤い色相を示す要因となった可能性がある。ただし、胞子同様の運搬経路を経た花粉が存在しないとは考えにくく、現時点での予察データにおいて暗く赤い色相を示す花粉化石がないことが説明できない。3) については、花粉・胞子壁を構成するスポロポレニンの成分が花粉と胞子で系統的に異なることが報告されており [4]、この差異が熱熟成や初期続成作用を受けた際のPDI・色相の変化の程度に違いを生じさせている可能性が考えられる。[1]Staplin, F.L., 1969. Bull. Can. Pet. Geol., 17 47–66.[2]Goodhue, R. and Clayton, G., 2010, Palynology, 34 (2) 147–156[3]Takashima, R. et al., 2019, Newsl. Stratigr., 52 (3) 341-376[4]Xue, J. et al., 2020, Mol. Plant., 13 (11) 1644-1653

著者関連情報
© 2023 日本地質学会
前の記事 次の記事
feedback
Top