日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: T13-O-16
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T13(口頭).都市地質学:自然と社会の融合領域
2022年トンガ火山噴火で発生した「空振」による地下水位変動
*香川 淳吉田 剛
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抄録

【はじめに】 2022年1月15日13:00過ぎ(日本時間),南太平洋トンガ王国のフンガトンガ-フンガハアパイ火山(以下,フンガ火山)が大規模に噴火し,この際に発生した「空振」(急激な気圧変動)や「津波」は約8000km離れた日本でも観測され,一部では漁業関連の被害を生じた.こうした噴火の影響が,千葉県内の観測井においても地下水位変動として観測されたことから報告する.

【気圧変動】 千葉県では,圧力式水位計の大気圧補正用として気圧計を県内各地に設置しており,その多くは,水位計の記録間隔に合わせて10分ごとの大気圧を記録している.唯一,千葉市美浜区稲毛海岸に設置している水位計に付属した気圧計(Onset社製 HOBO-MX2000型水位計)では,30秒間隔,0.01hPaの分解能で計測を行っている. フンガ火山が爆発的に噴火した1月15日,各地の気圧計では20:00過ぎに1hPa前後の急激な気圧の変化を記録した.特に稲毛海岸の30秒間隔記録の気圧計では,20:26頃に最大1.8hPaの気圧上昇の後,上昇直前よりも約0.5hPa低下し,その後は0.5hPa程度の振動をくり返す気圧変動が観測された(図).この気圧変動は,フンガ火山で発生した「空振」(約300m/s)が,約7時間かけて約8000km離れた日本まで到達したとする計算とおおむね一致する.さらに,地球2周目の到着時刻にあたる1月17日09:00前にも約0.8hPaの気圧上昇が観測されている.こうした地球規模で伝播した気圧変動は,大規模噴火にともない発生した長周期大気音波の一種(大気Lamb波:大気境界波)と考えられている(東大震研,2022).

【地下水位変動】 千葉県では約150本の観測井により地下水位を連続観測している.このうち下総台地の不圧地下水を対象とした観測井では,台風等の気圧変化と調和的に地下水位が変動することが知られている(香川,2021).フンガ火山の「空振」到達時においても,いくつかの観測井で明瞭な地下水位変動が観測された. 成田市三里塚に設置されている「成田-3(深度50m・スクリーン深度18.1~29.1m)」では,1月15日20:00過ぎに地下水位が低下を始め,20:26前後に最大12mmの低下が観測された.その後地下水位は上昇し,20:47頃に低下直前よりも約5mm上昇した後は,数mmの振動が22:00頃まで継続した(図). また稲毛海岸の気圧記録では,気圧上昇時にスパイク状の一時的な気圧低下が認められるが,これに呼応するように「成田-3」でも一時的な地下水位上昇が認められている. なお「成田-3」では,「空振」2周目に相当する1月17日09:00前にも7mm程度の地下水位低下が観測されている. また,八千代市村上に設置されている「八千代-1(深度60m・スクリーン深度28~45m)」においても,1月15日20:00過ぎに約10mmの地下水位低下が観測された. 市原市奈良に設置されている「Ic-4(深度100m・スクリーン深度52~80m)」では,1月15日20:00過ぎに約10mmの地下水位低下が観測された.

【大気圧と地下水位の相関】 「成田-3」において「空振」1周目に観測された約6.7mm/hPaの地下水位変動や,2周目の約8.8mm/hPaの地下水位変動は,台風通過時にみられる地下水位変動量(8~10mm/hPa)とおおむね一致することから,「空振」通過時の気圧変動により急激に地下水位が変化したものと推定される.なお,こうした急激な気圧変動に対し,台地上の不圧地下水が特に感度良く応答する原因については今後検討する必要がある.

【文献】

東京大学地震研究所(2022)【研究速報】 2022年1月15日13時頃(日本時間)のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火(https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/news/15712/).

香川 淳(2021)2019年台風第15号・第19号の影響による地下水位変動, 日本地質学会第128年学術大会講演要旨集.

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© 2022 日本地質学会
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