日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: T11-O-16
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T11(口頭).堆積地質学の最新研究
タービダイトの’化学堆積学シーケンス’:北海道川端層の例
*沢田 健朝日 啓泰
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抄録

イベント堆積層、特に洪水などにより形成されたタービダイトについて単層単位で化学データを得て、その堆積過程や堆積後の初期続成作用を評価する研究が近年になって行われている。Hage et al.(2020)では現世から更新世のフィヨルド沿岸で堆積したタービダイトシーケンスについて、炭素安定同位体比(δ13C)と放射性炭素同位体比(14C)をトレーサーとした単層単位のデータプロファイルを作成し、陸源有機物を多く含む混濁流において堆積時に有機物の密度により活発な分別作用が起こる状態を表示し、有機物組成がタービダイトシーケンス内で大きく多様化する結果を報告した。このようなシーケンス内の(単層単位の)化学データをシーケンスで表現して堆積メカニズムに関連した現象を解析・評価することを、演者らは’化学堆積学シーケンス( Chemosedimentary sequence)’ と呼ぶことを提案する。そして、この化学堆積学シーケンス解析において、バイオマーカーデータが、特に新第三紀以前のタービダイトシーケンスには有用であることを提案する。本講演では、北海道中央部に分布する中新統川端層のタービダイトシーケンスでの事例を紹介する。

川端層からはタービダイト試料を3シーケンス採取した。堆積構造はBoumaシーケンスに類似し、下部からmassiveな中粒-細粒砂部、平行葉理部、タービダイト性および半遠洋性泥岩部で構成される。有機物濃集部は主に細粒砂で構成され、平行葉理部に相当するユニットで観察される。川端層のタービダイト内の有機分子(バイオマーカー)濃度は、有機物濃集部のみで目立って高い値を示し、陸源有機物は起源となる植物の部位や粒子の密度によらず有機物濃集部に顕著な濃集傾向が見られた。また、シーケンス内の有機物組成における陸起源/海起源比は有機物濃集部で最大となり、その層から離れるに従い海成起源有機物の寄与率が増加し、下部砂岩と泥岩部で最も低い値を示した。この傾向は堆積場の酸化還元度や陸源有機物供給量を示すプリスタン/フィタン比(Pr/Ph)にも見られる。これらの結果から、下部砂岩では混濁流に削剥された海底堆積物粒子の混入と、混濁流本体からの陸源有機物などの低密度粒子の排出によって相対的に海洋成分の寄与が高くなったと考えられる。混濁流流下後に巻き上げられた有機物が徐々に堆積し、特に有機物濃集部で陸源有機物が集中して堆積する。その後に半遠洋性の堆積物がゆっくりと沈降・堆積することで、上方へと向かうにつれ海洋成分が増加すると考えられる。これらの混濁流中の有機物分別は主に有機物粒子の粒径によるものと考えられる。

引用文献

Hage S. et al., 2020. Geology. 48, 882-887.

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