日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: R14-P-5
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R14(ポスター)テクトニクス
南海前弧海盆(熊野海盆)付加体基盤の砕屑性ジルコン年代頻度分布
*福地 里菜伊藤 久敏山口 飛鳥木村 学
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キーワード: 付加体, 南海トラフ
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抄録

現世付加体深部の起源やその構造発達史は,沈み込み帯における地震活動や物質循環を理解するために重要な基礎情報である.南海トラフは,世界にある付加体を持つ沈み込み帯の中で,最もよく調べられている場所の一つであり,分岐断層より陸側(インナーウェッジ)の古い付加体は約6 Ma以降,海側(アウターウェッジ)では約2 Ma以降に急速に成長したとされる(Kimura et al., 2018ほか).しかし,これらの構造は反射法地震探査断面によって描かれることが多く,それだけでは時空間的な情報を解明できない.粘土鉱物分析から,陸側付加体は太平洋プレート上の半遠洋性堆積物を起源とする考えもあるが(Underwood 2018),不確定な要素も多い.本研究では,熊野海盆の基盤をなす陸側付加体深部の起源と構造発達史の復元を目的に,砕屑性ジルコンU-Pb年代測定を行った.

本研究では,統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program; IODP) (現・国際深海科学掘削計画: International Ocean Discovery Program)の一環として南海トラフの地震発生メカニズムやプレート境界断層沿いの破壊伝播の理解を目的として行われた南海トラフ地震発生帯掘削計画 (Nankai Trough Seismogenic Zone Experiment; NanTroSEIZE)により採取された試料を用いた.

2013年度に実施された IODP第348次研究航海では,紀伊半島沖,熊野海盆内の掘削点Site C0002においてライザー掘削が海底下870.5 m から3058.5 mまで行われ,カッティングス(掘り屑)が連続的に採取された.Site C0002は付加体のインナーウェッジにあたり,プレート境界断層から派生した分岐断層より陸側に位置する.このカッティングスを用いて,ジルコンを分離し,電力中央研究所のLA-ICP-MSにて U-Pb年代を測定した.用いた付加体堆積物試料の堆積年代は石灰質ナンノ化石より4–11 Maの間を示す(Tobin et al., 2015; Kitajima et al., 2020).

付加体堆積物(Unit IV・UnitV)の試料の年代頻度分布は,70-100 Maのジルコンを多く含み,原生代のジルコン粒子は稀であった.白亜紀のジルコンの加重平均年代は,Unit IVA,Unit IVB, Unit Vで,それぞれ94±4Ma,97±3Ma,97±4 Maを示した.付加体堆積物中の海底下1–3kmの砕屑性ジルコンの年代頻度分布は深度によらず類似する.また,この年代頻度分布の傾向は,Site C0002の後背地が本州弧の白亜紀火成岩,及びそれらがリサイクルした付加体堆積岩であることを示唆する.

原生代のジルコン粒子が稀であることは,足摺沖ODP Site 1177の試料が揚子地塊起源と推定される原生代ジルコンを多く含むこと (Clift et al., 2013) と対照的である.約70 Maにピークを示す前弧海盆堆積物試料(Site C0002 Unit III ; Ramirez, 2017)や熊野沖のアウターウェッジの前縁付加体試料(Site C0006・Site C0007)ともピークが異なる.これは,アウターウェッジ形成時(約2Ma以降)には南海トラフ熊野沖に供給される砂の起源が変化したことを示すと考えられる.約2Ma以降の陸域では西南日本の隆起,伊豆弧の衝突,中央構造線の活動など,堆積物の供給源に変化をもたらす流路の転換や削剥を伴うイベントが多い.発表では,紀伊半島を中心とした西南日本の約2Maより前の陸域の隆起削剥史を考慮して議論する.

Clift et al. (2013). Tectonics, 32(3), 377-395. Kimura et al. (2018). Progress in Earth and Planetary Science, 5(1), 1-12. Kitajima, H. et al. (2020). Site C0002. IODP Proceedings. Ramirez, S. G. (2017). Doctoral dissertation. Tobin et al.(2015) Site C0002. IODP Proceedings. Underwood, M. B. (2018). Island Arc, 27(3), e12252.

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© 2021 日本地質学会
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