日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: R4-P-18
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R4(ポスター)変成岩とテクトニクス
日本列島の地殻内部の温度構造と脆性塑性境界深度
*石川 正弘
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抄録

地殻内部は深くなるにつれて温度が上昇し、ある深さを超えると固体のまま流動する。この深さより浅い部分は岩石の脆性破壊領域であり、断層運動によって地震が発生する。脆性塑性境界は高地温勾配の地域では相対的に浅くなり、低地温勾配の地域では深くなると期待される。また、脆性塑性境界の深さは構成岩石によっても影響を受けるであろう。脆性塑性境界の深さを推定するためには地殻内部の温度分布と構成岩石の分布を解明する必要がある。本研究では日本列島の地殻深部の温度を地震波速度から見積もり、脆性塑性境界の深さ分布を推定した。

地殻深部相当の温度圧力条を高温高圧発生装置で再現して岩石や鉱物の弾性波速度を測定すると、P波速度(Vp)やS波速度(Vs)は岩石種と温度に大きく依存すること、一方、Vp/Vs比は温度依存性が極めて小さく、岩石種に大きく依存することがわかります。これらの特徴から二つのことが言える。まず、Vp/Vs構造から地殻を構成する岩石の分布を読み取れるということである。次に、Vp/Vs構造から同一岩石種が分布する領域の速度データを抽出することで、P波速度構造またはS波速度構造から温度成分を抽出することが可能である。

本研究では、防災科学技術研究所の三次元地震波速度構造の地震波速度データから一定のVp/Vs比の領域の速度データを用いることで、地震波速度データから温度成分を抽出し、地下の温度分布、地温勾配、300℃の深度、脆性塑性境界深度を推定した。さらに、ここで推定した温度構造や脆性塑性境界深度と地震発生層下限を比較した。例えば、脊梁周辺や朝日山地周辺で脆性塑性境界の深さが浅く、日本海沿岸では深い傾向が読み取れ、大局的には地震発生層下限と類似した傾向を示した。日本海東縁の中新世リフト活動部位では地震発生層下限が深くなる傾向があるが、その理由は、地下の温度が低いことに加えて、上部地殻・下部地殻とも苦鉄質岩で構成されていることによると結論される。四国・中国・近畿地域については、深度15㎞の地震波速度データを使用して、温度構造と脆性塑性境界分布を求めた。その結果、300℃深度は中央構造線付近に沿って浅く、その北側と南側は300℃深度が深くなる特徴が読み取れた。脆性塑性境界深度の傾向は地震発生層下限分布と類似している。九州地域については深度15㎞のデータを使用して、温度構造と脆性塑性境界分布を求めた。鹿児島周辺や大分周辺では300℃深度や脆性塑性境界が浅く、地震発生層下限分布と傾向が類似している。

地殻内部の温度構造は、マントルからの熱伝導と地殻内部の熱伝導と熱生成によって規制されているであろう。本発表では北海道南西部から九州にいたる日本列島の地殻内部の温度構造を推定し、マントルからの熱伝導、地殻内部の熱拡散、メルト・流体による熱移流、放射壊変熱が各地域でどのように温度構造に影響を及ぼしているのかについて議論を行う。

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