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海跡湖である島根県中海で得られた堆積物コアにおいて過去約600年間に渡る長鎖アルケノン組成とアルケノン不飽和度を測定し、汽水環境におけるアルケノン生産種の推定と細かい年代間隔での古水温復元を試み、中海周辺の気候変動について検討した。アルケノン組成はコア深度18cmを挟んだ上位と下位で顕著に異なり、その特徴から下位では外洋や沿岸に広く分布する Emiliania huxleyi や Gephyrocapsa oceanica が、上位では内陸塩湖や沿岸に分布する Ruttnera lamellosa が主なアルケノン生産種と推定された。復元された水温変動は江戸時代の4大飢饉や古文書記録に基づく日本の17世紀以降の気候の時代区分と大局的に一致し、中海におけるアルケノン古水温計の応用により詳細な古環境変遷の復元が可能となった。