日本地球化学会年会要旨集
2009年度日本地球化学会第56回年会講演要旨集
セッションID: 3D15 18-02
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大気圏・水圏とそれらの相互作用、気候変化
IODPタヒチのサンゴを用いたターミネーションIIの決定による地球表層環境システムの理解
*横山 祐典
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抄録

気候の平均的な状態を表す指標として, 海水準変動の規模とタイミングの高精度決定は重要である.地球の気候システムの中で, 氷期―間氷期の変化は, 最も重要な環境変動のひとつであり, その復元は地球表層の氷床量, すなわち海水準変動の観測とモデリングから行う事が可能である.本研究では, IODP(国際統合深海掘削計画)によってタヒチ沖で掘削されたサンゴを用いて,これまで放射性元素を使って直接タイミングが決定されていなかったターミネーションII(前々回の氷期―間氷期の移行期)の正確な時期をウラン系列年代測定法により決定するとともに, 移行期の日射量変動や海水準変動, そして大気二酸化炭素といった表層環境変化の時系列の詳細な復元を行う事に初めて成功した. 氷期―間氷期のおよそ10万年周期変動は,地球の公転軌道要素変化による,日射量の緯度分布の変化によってもたらされていると考えられている.特に氷期に大規模氷床が発達していた,北緯65度の夏の日射量変動の周期的な変化によってもたらされているという考えはミランコビッチ仮説と呼ばれている. 南極やグリーンランド氷床コアの分析から, 過去4回の氷期―間氷期の気温変動と大気中二酸化炭素濃度は約10万年周期で繰り返し, 氷期にはいつでも, 大気二酸化炭素の濃度が80ppmvほど低く, 気温の変動も同調していたことが明らかになってきた.気候モデルの研究からもターミネーションを引き起こす為には、二酸化炭素による温室効果のフィードバックが極めて重要であると報告されている。気温変化, 大気中のダストの量の変化, 大気中の温室効果ガスの変動などを記録し、過去の気候システムの復元に極めて有効な極域氷床のアイスコアだが, 放射年代決定を直接行えない事が問題となっている為, 放射年代決定が行える気候アーカイブとの対比による考察を行う必要がある. 本研究では, ターミネーションIIの放射年代決定を行う事ができた事による、大気二酸化炭素濃度変化のメカニズムについての考察やミランコビッチ仮説では注目されていない南半球の重要性, ドール・森田効果の複雑な時系列変化などについて明らかになり, 全球的な炭素収支のメカニズム理解のための一つの示唆を与えることとなった。これらは今後気候モデルの研究の大きな制約条件の一つとなることが予想される.

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© 2009 日本地球化学会
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