天然水において重金属を含む微量陰イオン種の濃度は、それら陰イオン種を含む固相の溶解度から予測される濃度よりはるかに低い。その主な原因は地球表層環境に偏在する鉄やアルミニウムの酸化物または水酸化物表面にこれらの陰イオンが吸着するためと考えられている。鉱物表面に吸着するイオンの結合形態は、表面の金属イオンと直接化学結合により吸着する内圏錯体と表面に静電気的に引きつけられて吸着する外圏錯体とに大きく分けることができる。これらの表面化学種は吸着の安定性を左右するために有害イオンの長期挙動や溶存イオンの生物利用性を考慮する上で重要となる。また、表面化学種は鉱物の物理化学的性質にも影響を与え、ナノ鉱物の溶解度(Fukushi and Sato, 2005)や鉱物の溶解速度(Blum and Lasaga, 1988)に変化を与えると報告されている。フェリハイドライトは土壌や河川に広く分布する低結晶性鉄水酸化物であり、大きな比表面積をもつことと天然の水質条件で通常表面は正に帯電することから陰イオンの優れた吸着体と考えられている。また、硫酸イオン(SO42-)は土壌や河川において一般的な陰イオンであり、共存する陰イオン(炭酸・リン酸)や有機酸、微量金属(Pb(II)・Cu・Zn)の酸化物への吸着に影響を与えることが報告されているため(Fukushi and Sverjensky, 2007)、硫酸吸着メカニズムの十分な理解が必要とされている。本研究では、その場赤外分光分析(ATR-FTIR)と表面錯体モデリング(ETLM)の併用によりさまざまなpH・イオン強度条件での水‐フェリハイドライト界面における硫酸の表面化学種の特定およびその分布を明らかにする。