日本地球化学会年会要旨集
2008年度日本地球化学会第55回年会講演要旨集
セッションID: 3F18 11-18
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古気候・古環境解析の地球化学
日本海秋田沖から得た海底堆積物中の同位体記録に基づく過去5万年にわたる水文環境復元の試み
*菅 寿美横山 祐典小川 奈々子北里 洋大河内 直彦
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キーワード: 日本海, 酸素同位体比
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抄録

日本海は比較的浅い(<140m)4つの海峡でのみ外洋とつながる縁辺海であるため、海水準の変動を伴う気候変化に敏感な海域である。最終氷期最寒期(LGM)には全球的な海水準の低下が130m以上に達し(Yokoyama et al., 2007)、日本海と外洋との水の交換は途絶えた。その結果、流入する淡水の蓄積に伴い、日本海は次第に低塩分化したことが過去の研究結果により示唆されている(Oba et al., 1991, Matsui et al., 1998など)が、その程度についてははっきりとわかっていない。我々は日本海秋田沖で採取したピストンコア(KY-04-09; 39.5N, 139.4E, 水深 860 m, 全長736.5cm)中の浮遊性(‹I›Globigerina bulloides‹/I›, ‹I›G. umbilicata‹/I›)および底生有孔虫(‹I›Uvigerina akitaensis‹/I›, ‹I›Angulogerina sp.‹/I›)の酸素・炭素同位体比を過去5万年にわたり、高時間解像度で(平均時間分解能は70年)解析した。‹BR›浮遊性有孔虫の酸素同位体比は、48ka BPから35ka BPまでは平均3.0±0.2‰(n = 169 )と安定していた。30ka BPから徐々に低下し、24.6kaから24.1kaおよび23.4kaから22.6kaにそれぞれ0.6‰および0.4‰だけ上昇した後急激に低下し、18ka BPで極小値(0.2‰)となった。その後外洋水の流入再開による塩分上昇が17kaから開始し、16.5kaに最も急激な流入を経て,12ka BPまで上昇した。その後、酸素同位体比はゆるやかに減少するが、これは日本海に流入する外洋水が、津軽海峡を通じた冷たい親潮水から、対馬海峡を通じた暖かい対馬海流に交代したためだと考えられる。底生有孔虫の酸素同位体比は一貫して浮遊性有孔虫よりも高かったが、その差は17-16kaに最も小さく(<0.5‰)なった。これは浮遊性および底生有孔虫の酸素同位体比の急激な上昇時期と重なっており、日本海に再流入し始めた外洋水が日本海表層および深層を高塩分化していくときに、成層が弱くなったことを記録しているのであろう。発表ではこの結果とグローバルな海面変動との関係について考察する。‹BR›浮遊性有孔虫の酸素同位体比は表層水の塩分と水温の変動に伴って変動するため、酸素同位体比から水温の効果を取り除くことにより、塩分変化の評価が可能となる。本結果を日本海に関する古環境復元の報告と比較して日本海の塩分変動について考察を行い、LGMを含む日本海の水文環境の復元を試みる。

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© 2008 日本地球化学会
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