日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-183
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ヒヌマイトトンボ保全のために創出したヨシ群落2年目の動態
*松浦 聡子渡辺 守
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抄録

レッドデータブックにおいて絶滅危惧_I_類に指定されているヒヌマイトトンボは、汽水域に成立するヨシ群落を生息地とし、1つのヨシ群落内で一生を完結する特異な生活史をもっている。1998年、三重県宮川河口の下水道浄化センター建設予定地に隣接する500m2に満たないヨシ群落で発見された本種を保護するため、隣接する放棄水田に汽水を流し、2110m2のヨシ群落を新たに創成する保全事業が開始された。創成1年目におけるヨシは1月「移植」という影響のためか、春に芽生えた稈の密度は既存生息地と差はがなかったものの、細く低かった。そのため、本種の生活空間である群落下部の相対照度は高くなり、本種ばかりでなく他の多くの蜻蛉目成虫が飛来していた。その結果、少数のヒヌマイトトンボ成虫は進出したものの、汽水環境にもかかわらず、多数のアオモンイトトンボとアカネ属の幼虫の生息場所となってしまった。創成して2年目になると、ヨシは既存生息地とほぼ同時に芽生え、伸長生長は盛んになったが、既存生息地のヨシよりまだ細く低かった。しかし、前年のヨシを立ち枯れたまま残しておいたため、稈密度は高まり、本種成虫の出現期間における群落下部の照度は本種の活動にとって好適な低さになっていた。この結果、創成地における秋のヒヌマイトトンボ幼虫の推定個体数は、前年の秋の9倍に増加していた。一方、開放的な場所を好むアオモンイトトンボの幼虫の推定個体数は減少したので、創成地のヨシ群落はヒヌマイトトンボの生息環境に近づいてきたと評価できる。

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© 2005 日本生態学会
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