日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S10-3
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陸生脊椎動物の外来寄生虫
*横畑 泰志
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抄録

 哺乳類、鳥類の寄生虫には人間や家畜、家禽に有害なものが見られるため、それらの宿主の日本国内への持ち込みには法的規制(感染症法、家畜伝染病予防法など)や検疫による対応が行われており、結果的に寄生虫の自然界への逸出もある程度防がれていると考えられる。しかし、有史以来のヒトや家畜などの移動によって、寄生虫を含む多くの寄生生物が自然分布の範囲外に分布を広げてきたであろう。野生動物の寄生虫でも、シカ類の第4胃に寄生する数種の毛様線虫が養鹿業に伴い大陸間で互いに、あるいは日本から大陸へと宿主ごと持ち込まれ、野外に定着している例が比較的よく知られている。演者は 24 種 2 亜種の日本の外来哺乳類について文献情報を収集し、飼育下での情報も含めて宿主 8 種から 28 種の外来寄生蠕虫類の報告を得た(横畑、2002)。また、日本産陸生脊椎動物に見られる外来寄生虫として、「外来種ハンドブック」(改訂版、2003)の巻末リストに吸虫類 1 種、条虫類 5種(2 種は国内移動)、線虫類 19 種(1 種は国内移動)、昆虫類 1 種を挙げたが、その多くは住家性ネズミ類に寄生しており、国内の野ネズミには見られないものである。その後、鳥類などで該当する事例が散見されており、今後も調査の進展に伴い種数が増加してゆくであろう。また、野生動物とヒトや家畜などに同種の寄生虫が見られる場合は、家畜などに寄生する外来のものが野外に逸出することによって野生動物に見られる土着のものとの交雑が進んでいるであろうが、検証はほとんど行われていない。
 国内では、エキノコックスのように人間に重篤な患害を及ぼすもの以外では十分な研究は行われていない。日本の陸生脊椎動物は、しばしば島嶼隔離や人為的な生息地の縮小・分断化によって個体群が小規模化しており、そうした状況下では寄生虫群集も単純化しているものが多い。したがって外来寄生虫の侵入も容易であると考えられる。

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© 2005 日本生態学会
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