日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-166
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新しい防鹿柵による地域植生回復の試み
*前迫 ゆり松井 淳高田 研一
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抄録

奈良県春日山歴史風土特別保存地区に平成16年現在建築中の岩井川ダム(ダム計画は昭和46年の予備調査に始まる)の緑化コンセプトは「古都奈良の歴史的・自然的景観との調和」である(奈良県)が、播種緑化工法により一部実施された緑化は,生態的問題点を多く含むものであった.そこでダムの緑化計画変更を申し入れ,再検討された結果,春日山原始林に対する生態的影響を十分勘案し,さらに岩井川流域環境に配慮した緑化計画があらたに推進されることとなった. ニホンジカの高密度生息域でもある本ダム緑化地域において,(1)春日山原生林のバッファゾーンとしてこれにふさわしい自然再生,(2)地域生態系の回復および地域遺伝子資源の保全,(3)周辺景観との調和を考慮した樹林化による森林再生などの観点から,シカの影響を回避するパッチディフェンスが考案され,竹(モウソウチクとマダケ)による防鹿柵の構築と自然林の林分構造を考慮した自然配植緑化が平成14年度に実験的に実施された.本大会では,新規提案竹防鹿柵の評価,木本苗の生長と相対光量子密度などとの関係,シカの食害状況などを報告する.竹防鹿柵はシカによる被食回避と景観的調和に加えて、直射光を遮ることによって,植栽された苗木に対する強光阻害や土壌の過度の乾燥を防ぎ,木本苗の順調な生長に導いていることを示唆した.さらに平成13年度以前の播種緑化工法による緑化のモニタリング調査(平成14年7月調査開始)から,シオザキソウ、アメリカオニアザミ、シナダレスズメガヤ、ススキなど外国産種子の草本群落形成・繁茂が確認された.多数播種したにもかかわらず,木本種子の定着はほとんどみられず,ススキによる被圧とシカによる被食(既設フェンスは一部が破損し,機能していない)が木本実生の生長阻害要因になっていると考えられた.

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© 2005 日本生態学会
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