日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-094
会議情報
左右反転変異の進化生態学的研究
*宇津野 宏樹浅見 崇比呂Gittenberger Edmund
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

全体が左右逆の種は一般に動物では見つからない。ところが巻貝では、体全体が左右逆の種が多くの系統で独立に進化した。巻貝の右巻と左巻は、交尾器の位置も求愛行動も左右逆であるため、交尾が物理的に難しい。そのため、少数派の巻型が繁殖上不利になり、他の要因がないかぎり、巻貝の集団は左右巻型のどちらか一方に固定すると考えられる。しかし、この頻度依存淘汰では、放精放卵する巻貝が右巻に固定している原因を説明できない。しかも、他の動物で鏡像体が進化しない原因も説明できない。本研究は、左右逆の発生が正常に進行するか否か、すなわち安定化淘汰が左巻に対して生じるか否かをテストする目的で行った。淡水棲の有肺類Lymnaea stagnalisは、野生の集団が通常は右巻に固定している雌雄同体である。野生集団に由来する左右巻型変異は、母親の核1座位の母性効果により決定され、左巻が劣性であることがわかっている。ゆえに、劣性ホモ接合体(dd)と野生型(DD)を交配すると、前者は左巻を産み、後者は右巻を生む。この方法により、すべてヘテロ接合体(Dd)で、ゲノムが平均して同じであるにもかかわらず、たがいに左右逆に発生する個体が得られる。これらの右巻と左巻の生活史形質を比較した結果、たとえゲノムが同じでも、左右逆に発生するだけで孵化率が低下することが判明した。この単純な結果は、左右軸の反転変異に対し、発生拘束が働くことを証明している。しかも、発生拘束により鏡像体が異常になるため、鏡像体の進化が抑制されていることが明らかである。

著者関連情報
© 2005 日本生態学会
前の記事 次の記事
feedback
Top