日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-093
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カタツムリにおける隠蔽隔離とそのメカニズム
*森 宙史関 啓一浅見 崇比呂
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抄録

近縁種間の不完全な生殖的隔離のメカニズムを調べることは、種分化のプロセスを理解する上で重要なアプローチである。雌雄同体の動物では、生殖的隔離の進化に不可欠の雌雄の相互作用が研究しづらいため、生殖的隔離機構の研究は皆無に近い。オナジマイマイとコハクオナジマイマイは、配偶者が正逆交尾して精子を交換する同時雌雄同体である。2種は種間で正逆交尾するものの、コハクのみが妊性のある雑種を生み、オナジが産卵する例はこれまでに見つかっていない。交尾継続時間が短いオナジは、コハクより先に精子をコハクに渡して交尾を終了するため、コハクから精子を受け取ることができない。この交尾継続時間の種間差により、コハクは父親になれず、オナジは母親になれない。すなわち、交尾後かつ受精前の隔離(隠蔽隔離)が種間で非対称に進化している。この場合、雑種を産めるコハクのmtDNAは、オナジ集団に浸透しやすく、その逆の種間浸透は生じにくいと予測される。ところが、この予測に反し、コハク集団にオナジ型ハプロタイプが高い頻度で見つかった。交尾継続時間には種内で変異があるため、もし交尾継続時間の種間差が隠蔽隔離の原因であるのなら、オナジが時にはコハクから精子を受け取り、産卵する場合も低頻度ながら生じるはずである。さらに、もし交尾継続時間が量的形質で、コハクが産む雑種F1の交尾継続時間が2種の中間になるのであれば、雑種と交尾するオナジは雑種の精子を受け取り、戻し交雑種を産める可能性が高い。戻し交雑種は、交尾継続時間の分散が高いため、コハクと交尾してオナジ型ハプロタイプをもつ雑種を産むことも十分に可能である。これまでに、以上の交雑モデルを実験的に検証し、支持する結果が得られたので報告する。

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© 2005 日本生態学会
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