2020 年 27 巻 1 号 p. 95-100
企業における多角化と業績との間にはいわゆる逆U字の関係があると言われている.しかし,先行研究ではU字の関係や正の関係,負の関係なども見出されており,一意の結論は得られていない.本研究では,日経バリューサーチのデータベースにおける2008年から2017年までの10年分のデータを使用して,わが国情報サービス産業における多角化と業績(財務パフォーマンス)との関係についてパネルデータ分析を行った.そこでは,多角化の指標としてエントロピー指数を,業績の指標としてROA,ROE,EBITマージンの3つを用いた.分析の結果,エントロピー指数とROEおよびROEとの間には有意な関係は見られなかったが,2期前および3期前のエントロピー指数と当期のEBITマージンとの間に有意な負の関係が認められた.このことから,わが国情報サービス産業における多角化の取り組みは,業績に負の影響を与えることが示唆される.