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我々は昨年までに、未知代謝物について、LC/FT-ICR-MS分析から得た化学構造的情報を付した代謝物アノテーション手法について報告した。本研究では、この手法によって得られた代謝物情報のデータベース化、並びにこれらの情報の生物学的な知見への応用についてトマト果実の例を報告する。
成熟段階の異なるトマト(Micro-Tom)果実から調製したメタノール抽出液のLC/FT-ICR-MS分析によって、総計869の代謝物情報を得、代謝物データベースを作成した。既存の代謝物データベースでの検索結果から、494の代謝物については、新規であることが示唆された。代謝物数は、総じて果肉よりも果皮が多く、また果実成熟により増加し、組成も変化することが分かった。取得した代謝物の全組成式比較の結果、トマト果実ではhexoseやcaffeic acid、malonic acidなどの付加反応が起こりやすいことが分かった。二次代謝物については、70種のフラボノイド、93種のグリコアルカロイドの代謝物情報を得た。これらについては、さらに多段階MS/MS分析により構造相関を予測し、いずれも成熟に伴い、配糖化などの付加による修飾反応が進むことが分かった。また、野生株と変異株の比較においても代謝物アノテーション情報が有用であることについても紹介する。本研究の一部は生研センター異分野融合研究事業の補助を受け実施された。